2017.04.27

朝と夜で表情が変わる木と石が調和した空間

朝と夜で表情が変わる木と石が調和した空間

実験的なアイデアを取り入れ定番なのに斬新な住宅に

首都圏を中心にSE構法の木造住宅を手掛けているR.クラフト。設計から施工、外構まで、社内スタッフをメインに行う精鋭の職人集団で、石材やスチールなどの素材を組み合わせたクールな木の家づくりには定評がある。
T邸は、R.クラフトの武田 力社長の自邸であり、自社のスタイルを体現している。これから家づくりを考えている人にR.クラフトの家の快適さを体感してもらうため、これまでは実際に建てた家を開放してもらっていたそう。だが、それでは協力してくれる方に負担がかかるのも事実。ならば自分の家を気軽に開放しようと思い、昨年、自宅を新築したという。
プランは中庭から光が入り、日中は終日明るいL字型。1階には広いLDKを置き、寝室や浴室などの生活スペースは2階にまとめた。家の各所に、R.クラフトの特徴ともいえる、石材タイルや羽目板天井などを採用。「さらに、ウォールナットの寄木仕上げを取り入れたキッチンカウンターなど、実験的なアイデアも盛り込んでいます」と武田さん。ほかにも、浴室には漆喰のような風合いの壁。これはモールテックスというベルギーのビール会社が開発した左官材で、薄塗りでも強度があり、防水性にも優れているため、浴室や洗面台にも使用できるのだという。

時間の流れ、年月の経過を味わえるような素材

夜は表情がまったく違うのもT邸の魅力のひとつ。LDKのキッチンカウンターは夕刻になると陰影が際立ちシックな印象に。グリーンが置かれた夜のテラスはカフェバーのよう。さらに、家族が集うリビングはホームシアターに変身する。最近は夜のリビングで、成人したお子さんとともにお酒と映画を楽しむことも多いという。
夜が似合うLDKは、天井のシャープなラインを際立たせるため、スピーカーやダウンライトを天井に埋め込むなど、デザインへの細やかな配慮から生まれている。リビング正面の壁に貼ったのはインドネシア製の溶岩石のタイル。もともと形が不揃いなので、きっちり貼ってもラフな仕上がりになるのが魅力だと武田さんは言う。「フローリングもあえて節目が目立つラスティックなものを選んでいます」。不揃いな木目は通常より2~3割割安で、コストダウンにもつながった。
内装は、家具選びも同時に行いながら決めていった。「家具が定まると内装のイメージがまとまるもの。階段の板の色や幅を家具に合わせることで統一感が出るんです」。テレビボードや書斎のデスクに選んだのは、アカセ木工が展開する「マスターウォール」。上質なウォールナットをシンプルに組み立てたシリーズで、コンセプトは「100年後のアンティーク家具へ」。「ヴィンテージ風に加工するのではなく、自分で時間をかけヴィンテージに育てていく」という価値観に共感して採用した。

設計・施工・住み手が一体になった家づくり

武田さんは10代から大工として現場に立っていたそう。20代で親方として職人を束ねるようになると、クロスや水管など各専門の職人が自然と集まり、ほどなくして年間30棟の建売住宅を請け負う大所帯になったという。その後、美的感覚に優れた建築家に影響を受け、デザインを学ぶにつれて、「設計」「施工」「住み手」の間に、距離があることに気づいた。ならばその溝を埋めようと建築士や宅地建物取引主任者の免許を取得。1998年にR.クラフトを設立した。
「建築士の作品性をきちんと咀嚼しつつ、大工たちの作業工程にも配慮し、住み手のためにコストや数年後のことも考えられている。そんな『洗練されていて、つくりやすく、住みやすい家』の見本のような家をつくりたかったんです」という武田さん。設計者自らが施工し、維持メンテナンスまで請け負い、住み手の要望をより密に共有して、将来の維持管理まで視野に入れた家づくり。T邸は、これを見事に実現した。

取材・文 間庭 典子
 

T邸

設計 武田 力(R.クラフト) 施工 R.クラフト株式会社
所在地 埼玉県さいたま市 家族構成 夫婦+子供3人
延床面積 119.00 ㎡ 構造・構法 SE構法

この家を建てた工務店

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