2016.04.07

木と石がハーモニーを奏でる住宅

木と石がハーモニーを
奏でる住宅

やさしい木と凛とした石の
コントラストが絶妙な大空間

石畳が続く老舗の料亭のような趣のある玄関。 職人が細工した引き戸の扉を開くと大空間が広がる。壁、柱など視界を遮るものは何もない。できるだけ空間を大きく取るために梁を見せて20㎝ 伸ばし、2.8mの天井高にした。
LDKの主役は正面からゆるやかに連なる美しい階段だ。木の空間の中でその存在感が光るのは栃木県産の大谷石。「学生時代、フランク・ロイド・ライトが設計した帝国ホテルライト館を移築したエントランスを見て以来、いつか自分が家を建てるときには大谷石を取り入れたいと思っていました」とご主人。やわらかい素材で加工しやすく、独特の風合いがある大谷石は防火性でも知られ る。その耐火性、蓄熱性の高さからピザ窯の構造 材に用いられているほどだ。帝国ホテルライト館は完成披露の当日に関東大震災に遭遇したものの、ほぼ無傷なままで残り、設計者のライトは感激したという。
大谷石は外壁や門柱に使われることが多いが、 K邸では室内でもその風合いを楽しむため、内装にも各所で取り入れている。「大谷石は硬すぎず、軽やかさのある石材なので、木材と組み合わせることで互いを引き立て、いいバランスが生まれると思いました」と語るご主人はテキスタイルの専門家。藍染のデニムに京友禅をデザインした和モダンなスタイルを提案しているデザイナーだ。大谷石と木のような質感の違う組み合わせも、異 材が生むコントラストを知るからこその選択だ。

間接照明や磨き丸太を生かし
実用だけではない演出効果を狙う

木と石の空間を照らすのはやわらかい間接照明。強くシャープな光は徹底的に排除している。「ただ明るく照らすだけが照明の役割ではないと思うのです。生活をわくわくさせ、気持ちを安らげるのも照明の力です」とご主人は語る。室内のライトはすべて上向き、階段の壁のライトは足元 部分まで照らさない。舞台装置としての効果を狙ったその判断に、お客様窓口担当の竹ノ内昭範さんも驚いたという。「これはパナソニックのライトですが、体育館などの公共施設で使われることが多く、住宅では例がありません。その発想にはっとさせられました」と竹ノ内さんは振り返る。
ご主人の審美眼は細部にまで貫かれ、その都度、担当者としてクリアするべき課題に向き合った。「例えば階段の設計です。通常のおさまりだとあと一段、手前にせり出すことになり、違和感のある出っぱりができます。ならばあえて最初の1段目には北山杉の切り株を代用し、アクセントにすることを提案しました」と竹ノ内さん。北山杉の産地として知られる京北町を訪れ、室町時代から茶室 や数寄屋に重用された磨き丸太をステップにした。
違和感のある出っ張りを出さないことにも心を砕いた。「Tシャツなどはプラスしてプリントする技術ですが、友禅染はマイナスする技術。日本の建築もいかに無駄をそぎ落とすかが重要だと感 じました」とご主人。建具の枠を見せないおさまりを必須にするなど、ミニマルな空間づくりを極 めた。たとえば玄関からシューズクローゼットにつなぐルーバーの引き戸は、取っ手部分に凹凸をつけることで金具を使わずに引きやすくなるよう工夫している。

世界に例のない「オリジナル」を
追求できるのが工務店の家づくり

研ぎ澄まされた空間には一枚板のダイニングテーブルやテレビ台など、家のスケールに合わせてオーダーメイドした木の家具が映える。また大手メーカーのキッチンも既製品では5㎝刻みでちょうどいいサイズがないため、3㎝だけプラスして取り付けることを依頼した。細やかなサイジング から、今までに例のない革新的な取り組みまで、さまざまな課題をクリアし完成。難易度の高いこの家の施工経験は、現場を担当した若手監督の自信にもつながったという。
理想を追求し、互いを高め合う家づくりが工務 店では可能だ。

取材・文 間庭 典子

K邸

設計 山栄ホーム 施工 山栄ホーム株式会社
所在地 京都府日向市 家族構成 夫婦+子供二人
延床面積 159.70㎡ SE構法2階建て+ロフト

この家を建てた工務店

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