2017.01.12

自然のエネルギーを取り込む7層のスキップフロア

自然のエネルギーを取り込む7層のスキップフロア

スキップフロアを連ねたひとつながりの「ワンスペース」

玄関から数ステップ上がるとダイニングキッチンがあり、そこから少し下りるとリビングへ。そしてそのリビングは、大きな開口で庭に緩やかにつながっている。芝生や木々の緑が清々しく、公園の中で暮らしているかのような開放感がある。
この住宅は、スキップフロアを7層に重ねた構造。オフィススペースやリビング、プライベートリビング、寝室、テラス、ルーフバルコニー、地下の納戸と、何層にも居場所が縦方向に重なっている。それぞれのスペースが吹き抜けを通じて立体的にリンクしあい、壁も扉もなくつながる7層の住空間。それはまるでワンフロアならぬ「ワンスペース」と呼びたくなるような、一つの大きな空間だ。
その中でも目を引くのは、リビングの正面にある宙に浮いたようなライブラリーコーナー。バルコニーのように吹き抜けにせり出した部分は、椅子を置くくらいのスペースがあり、壁一面が書棚になっている。部屋のどこからもコーナーが見えるため、本をぎっしり収納せずに、さまざまなグリーンを配して、軽やかな飾り棚に。グリーンは大阪、神戸を中心に観葉植物のレンタル、販売、造園を手がけている南翠園にコーディネイトを依頼した。花器や配置まで計算し、緑に囲まれたリラックス空間が完成した。

大空間の利点を生かした立体的な採光・通風計画

スキップフロアがもたらす恩恵は視覚的な効果だけではない。自然エネルギーを効率よく受けることによって、24時間365日を快適に暮らすパッシブデザインにも生かされている。「近畿圏の場合、夏の日射角度の高さは72度、冬は28度です。それを踏まえ、タイコーアーキテクトでは南側に1.3mの大きな庇ひさしを設けることを提案しています」と語るのは住み手でもあり、設計・施工を手掛けたタイコーアーキテクトの代表取締役・羽柴仁九郎さん。夏は庇が直射日光を遮るので涼しく、冬は最大限に光や熱が室内全体に行き渡る。「勾配天井が反射板となり、部屋全体が明るいのです。また気象庁の風向データを研究し、通風計画に基づいた設計をしています」。自然換気の補完として、空気の質、温度、湿度を管理できる24時間換気システム(熱交換型1種換気システム)も積極的に採用している。「本気で健康にいい家を建てよう、家族が安心して住めるコミュニティを築こうと考えたんです」と羽柴さんは語る。

コミュニティを築くことで豊かな環境を共有していく

実はこの邸宅は、11軒が集まる「コモン型分譲住宅地」に建つ。
「コモン型分譲住宅」とは、羽柴さんが考案した分譲形態で、土地は50年以上の定期借地契約をコミュニティ全体で結び、タイコーアーキテクトが個々の住宅を設計している。そのため住宅のデザインやレイアウトはそれぞれの注文に合わせて別々だが、どことなくコミュニティの中で調和している。
「建物と建物の間は最短で2m。遮る塀や柵もありません。敷地内を通り抜ける車両もないので、子供たちが駆け回っても安全です。外部の人間は侵入できないため、防犯性も高いんです」と羽柴さん。「敷地内の菜園で野菜を育てたり、中央にある東屋では子供たちが集まって宿題をしていたり、本当に公園の中で生活しているような感覚ですね」。
地域全体で子供を育て、高齢者をサポートする昔のご近所さんのような関係性が自然に築かれたそう。土地を買い取る必要がないので、予算も抑えられ、次の世代への引き継ぎに悩むなど、土地に縛られることもない。土地の所有者にとっても信頼できる相手から安定した地代を受け取れるというメリットがある。
「地域全体で豊かな環境を築くこのシステムをこれからもっと広げていきたい」という羽柴さん。壁で遮断せず、緑や太陽をシェアできる豊かなコミュニティで、自然の力を生かす住宅デザインはより生かされている。

取材・文 間庭 典子

M邸

設計 山村恭代(タイコーアーキテクト) 施工 タイコーアーキテクト
所在地 大阪府東大阪市 家族構成 夫婦+子供1人
延床面積 138.6 ㎡ 構造・構法 SE構法

この家を建てた工務店

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