2017.07.28

笑顔に包まれる家族の食卓─ 「食育」をテーマにした家づくり

笑顔に包まれる家族の食卓─ 「食育」をテーマにした家づくり

家族の絆が深まるひとつながりの空間

S邸の家の中心は2階のキッチンスペース。アイランドキッチンがまるでステージのように、LDKのすべてを見渡せる位置にある。ダイニング、リビング、子供たちの勉強スペース、バルコニーがひとつながりになった大空間があり、その中央にキッチンがある。家族でさまざまな食の感動や楽しみをシェアすることで、子供たちに食を大切にする気持ちを持ってほしい。S邸は、そんな思いを大切につくった「食育」をテーマとした家だ。レイアウトは、まだ小学生と幼稚園児のお嬢さま2人が調理に興味をもち、ゆとりのあるキッチンで一緒に調理をしたり、キッチンとダイニングで会話を楽しめるような配置を心がけた。
また、ご夫妻のもうひとつの希望が、「いつも家族一緒に過ごせる大きな空間」。キッチンから見て右奥のスペースにロングデスクを設け、お嬢さま2人が並んで机に向かえる環境に。リビングの一部ではあるが、階段ホールが仕切りとなり、半個室のような落ち着ける空間。「子供が部屋にこもるのではなく、一緒に宿題に取り組めるような共有スペースにしたかったんです」と奥さまが言うとおり、困ったときにすぐにサポートできる距離感だ。LDKにつながるロフトは、ご主人の希望でオフィススペースに。写真が趣味のご主人が、同じ空間で過ごしながらも、作業に集中できる秘密基地のようなスペースで、日中は子供たちの格好の遊び場にもなっている。

グリーンの力で室内でもアウトドア気分に

LDKとリンクする広いバルコニーもS邸の特徴だ。「アウトドア好きのご家族に合わせ、インナーバルコニーや坪庭など、内部と外部との中間領域を提案しました。室内をより広く感じさせる効果もあります」と設計を担当した住まい設計工房の蘇(そ)理(り)裕司社長。住まい設計工房ではSE構法ならではの大開口をうまく利用したプランを得意としている。「外の光や借景を効果的に取り入れるのは、日本家屋の特徴です。インナーバルコニーをはじめ、家の各所にグリーンを配置することで、室内にいても緑を感じられるようにしました」と蘇理さんは語る。グリーンコーディネイトは店舗などのグリーンレンタルも手掛ける南翠園に依頼。どのアングルからも植物が視界に入るため室内が生き生きとし、自然を感じる優しい空間になった。また、天井のレッドシダー材は、LDKとバルコニーで共通に。つながりを出すことで一つの大きな空間に見せることに成功した。夏にはバルコニーでバーベキューを楽しんだり、そこから梯子を使って屋根に上がり、親子で星空を観測することも。自宅にいながらにしてアウトドア気分で過ごせるアイデアがちりばめられている。

空間のひねりを生かし日本家屋の「間」を再現

毎日必ず家族で食卓を囲み、各自の時間もそれぞれLDKの周辺で過ごす。同じ空間にいながらプライバシーが保てるのは、階段の陰やグリーンを利用してさりげなく場所を区切ったり、ロフトを設けて視点の高さを変えたり、各コーナーの座る位置や向きを工夫することで、お互いの視線を交わりにくくしているため。「こういった『空間のひねり』、つまり、コーナー同士が向かい合わせにならないような工夫をして、個のスペースをつくっています。これもまた伝統的な日本家屋の『間』の発想。これを現代のライフスタイルに合わせるように意識しました」と蘇理さんは語る。
2階の大きな空間をさまざまな用途で使えるようにしたため、1階には余裕が生まれ、将来を見越した予備室を確保できた。「今は広々としたひと間にしていますが、SE構法なので簡単に2部屋に分けることができます。将来、娘たちが成長したら個室にしようと思っています」とSさん。ほかの部屋も家族の変化に合わせて、その都度リフォームする予定だそう。日本家屋の考え方を取り入れ、食卓を中心に皆が居心地よくつながる家。それは、これからも家族とともに進化してく。

取材・文 間庭 典子

S邸

設計 蘇理裕司(住まい設計工房) 施工 住まい設計工房
所在地 大阪府羽曳野市 家族構成 夫婦+子供2人
延床面積 106.03㎡ 構造・構法 SE構法

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