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美しさと、強さと、自分らしさ。

暮らしの中の小さなロングライフ 本間 美紀

vol.02 麻を「手なずける」

麻の季節がやってきた。
告白すると、麻(リネン)は苦手な素材だった。
今は「リネン大好き」という女性が増えているから、長く肩身がせまかった。
「リネンのある暮らし」なんていうキャッチで 暮らし上手を象徴して「記号化」されているのにも、ちょっと抵抗があった。

美しいけど、ごわごわと張りがある。買ったときはパリっとしているのに、一度洗ったとたんにテロンとしわがつき、扱いは手強くなる。アイロンも大して効きはしない。使って1、2回で放りだしてしまい、ずいぶんと長いこと、私は麻を持て余していた。

麻を「手なずける」 イメージ1

そんなある日、料理好きの友人からお惣菜を分けてもらうことがあった。パックされたお惣菜は布に包まれていた。ざらりとして、でもなぜかしなやかな張りがある。私は最初、それをなぜか化学繊維だと思った。実はそれは、何年も使い込まれた麻のキッチンクロスだった。

麻を「手なずける」 イメージ2

あぶらが抜け、繊維っぽくなり、くたくたで、それでも張りがあり丈夫だった。そのまま使ってくれていいという。しなやかで水をよく吸い、すぐ乾き、蒸し料理をするときはさらし代わりになり、寝かせているお菓子の生地などにかぶせておくのもよかった。麻とはこんなに使いやすいものかと、このとき初めてわかった。とことん使い込まれることで、麻は使う人の一部になるのだ。自分はその時間が待ちきれず、すぐにあきらめていたのだった。

こんなこともあった。綿かと思って買ったふとんカバーが、麻だった。麻への苦手意識はまだあったから、数ヶ月はそのごわごわとして粉っぽい素材感に、やや不満を持ちながら眠っていた。
ところが、それはある日突然くるのである。
リネンが自分の肌と体温を覚えて、とたんに素材感をとろりと変え、体に吸い付いてくる。そうなれば、長い繊維による張りやしなやかさの心地よさは、他の素材と比べようもない。洗いたての綿のさわやかさも捨てがたいが、リネンは忠実な僕のように「使う人の一部」になってくれる。これがリネンの奥深さで、これは一度体験してみなければわからない。

麻を「手なずける」 イメージ1

ある食事の席で、イタリアから麻製品を輸入するご夫婦と一緒になった。ふたりが扱うテーブルリネンは、イタリアの職人が柄まで織りで表現する美しいリネンだ。「麻は繊維が長くて強いから、どんな生地よりも暮らしの中で長く使える布なんですよ。アンティークリネンという言葉はよく聞くけど、アンティークコットンとはあまり聞かないでしょう」と言う。

麻は使い込んで、数年目以降からがよいのだという。彼らが扱う商品は何十年も使い込める高品質の麻で、テーブルランナーで市価25000円ほど。「一度買えば、ずっと使える。けれどもそれだけ出せば、品質が落ちてももっと大きな綿のテーブルクロスが買える、とお客さんはなかなか手を出してくれないんですよ」と苦笑する。以前の私のように、素材とのおつきあいに気づかない人が多いのだろう。

リネンを自分のものとする。そこに楽しみを感じる、とはあるリネン好きの言葉だ。素材ととことんつきあって、その手で「質(たち)」を手なずけ、長く使いこなす。
私たちはそのよろこびを、いつから忘れてしまったのだろう。

著者プロフィール

本間美紀
本間美紀
早稲田大学第一文学部卒業後、インテリアの専門誌『室内』編集部に約9年勤務。
2002年よりインテリア、デザイン、キッチン、暮らし関係のフリーエディター&ライターとして、暮らし、インテリア、デザイン、キッチンなどをテーマに雑誌の執筆やムックの企画編集を中心に活動を開始。

エキサイトコンシェルジュ
イズム http://www.excite.co.jp/ism/concierge/
ガルボ http://woman.excite.co.jp/garbo/concierge/
バックナンバー
vol.01 骨のような家具、肌のような家
vol.02 麻を「手なずける」
vol.03 素材感さえあえば 〜水回りとインテリアがつながるお話【前編】
vol.04 素材感さえあえば 〜水回りとインテリアがつながるお話【後編】
vol.05 「ほんとう」の贈り物
vol.06 業務用の落ち着き
vol.07 「スタイル」に惑わされるな
 
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