


2年ほど前、東京のしながわに初めて自分たち夫婦の家をもちました。路地奥にある、木造二階建て。なんだかぼんやりした佇まいでしたが、夫が図面を引き、地元の職人さんの手で改築してもらうと、なかなか居心地のよい家に生まれ変わりました。
我が家の生活はちょっと古めかしくて、和室がメインです。東京という土地では、凄まじいスピードで経済活動が疾走しており目が回りそうですが、帰宅して木や和紙に包まれた空間に身を置くと、心と体がじんわりほぐれます。

せっかく和室で暮らしているから、家具もこだわろう。そう思い立ち、近所の骨董店で手ごろなちゃぶ台を買い求めました。日本人が長年愛した、丸い形と短い脚。よく拭き込まれた板は、とろりとしたいい艶があります。これまで使っていたテーブルと同じサイズなのに、部屋がなんと広く感じられることか。大量生産の家具との違いをまざまざと見せつけられた気がしました。レトロな食卓がおもしろくて、骨董の皿や漆の椀を用いるようになり、友人から床分けしてもらってぬか漬けもはじめました。昔の「茶の間」のカタチを真似ていたら、しぜんと食生活も和に傾いたことが、我が事ながらおもしろく感じられました。

話は飛躍しますが、私は能や歌舞伎、落語など日本古来の芸能に熱中しています。先人が磨いた「型」を徹底的に身体にたたき込む、というセオリーで修練されたそれらの芸には、独特の光と陰があってとても魅力的です。不思議なことに、ここで暮らすようになってから、それらの芸と私の日常生活の根っこはつながっている、と実感するようになりました。頭や言葉で理解するのではなく、たとえば板の間を歩いていて、ふっとお能の身体づかいのヒミツに気づく、といった具合に。眼光紙背に徹せずとも、和室に暮らしていれば、おのずと日本文化の真髄に近づける。そんな淡い期待を抱きながら、日々を過ごしています。
皐月



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