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美しさと、強さと、自分らしさ。

木の家で、日本の美に出逢う 田村こたみ

第2回 板の間に遊ぶ

和の建築の床、というとすぐに畳が思い浮かびます。しかし、板の間も暮らしてみるとなかなか楽しいものです。

我が家は、燐寸箱のような小さな家ですが、板の間が結構たくさんあります。女性的な柔らかさをもつ畳の部屋に対して、板の間は凛とした空気がある。異なる2つの空間が混在することで、家の中に心地よいメリハリがついているように感じます。
これからは、素足が心地よい季節。板の間は、すぐにべたついてしまうので、固く絞った雑巾でぎゅっぎゅと拭いて、こまめに手入れします。使い古した日本手拭いでヌカ袋を縫い、ときどきツヤがけもする。木という素材は、拭けば拭くほど輝きが増します。それが面白くて、床やら木製火鉢やら、木のものばかりを磨いてしまう。私も日本の女なんだなぁ、と変なところで実感しています。

板の間と猫
板の間と猫
ふき掃除をする時は、床を直に触り、間近で眺める。密なコミュニケーション(?)を図るせいか、板の間には妙な愛着がある。

私のささやかな書斎も板の間です。仕事がら机に向かうことが多いのですが、思考が行き詰まると、足袋に履きかえ、能の稽古をして気分転換を図ります。稽古といっても、板の間に立ち、ただ歩くだけ。一見、簡単そうなこの所作が、実はとても難しく、私のような素人はまるで様になりません。ちなみに能では、履き物は用いず、どんな役も全て白足袋で演じます。

能の舞台を観ていて、ただ歩くだけの姿に、非常に心動かされることがあります。二三歩、前に出る。一二歩、後退する。そこから思慕や諦観などのさまざまな感情や自然の風景が流れ出し、静かな幻想に包まれる。さらに言えば、その能の物語を越えて、世界全体を描き出しているかのように感じられるのです。能に触れるようになって、自分のなかに初めて美という概念が生まれたような気がします。

謡本と扇
謡本と扇
能の謡(うたい)の本と扇。古い日本語は、奥ゆかしく、詩情あふれる。それを能独特の節をつけて発音すると、えもいわれぬ美しい響きとなる。

板の間の上で、考えること。畳に座して想うこと。それは微妙に異なるように感じます。日本人にとって床は単なる家の構造体ではなく、文化を育む重要なシカケなのかもしれません。
水無月

夜の神輿
夜の神輿
毎年6月には地元で祭が行われる。まちの人と神社、土地がひとつになる儀式。自分と、住む土地との縁を改めて感じるひととき。

今月のおすすめBook

ようこそ能の世界へ---観世銕之亟 能がたり
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観世銕之亟
(2000 暮らしの手帖社)
難しい、わかりにくいと敬遠されがちな能の世界を、やさしく導いてくれる案内書。能楽師の語り口調なので読みやすく、能の真髄もたっぷり盛り込まれている。カラー写真も多く、ながめるだけでも楽しい一冊。

著者プロフィール

田村こたみ
田村こたみ
1969年生まれ。編集者・ライター。歌舞伎関連の編集など、日本の伝統芸能をテーマに活動。東京都品川区の下町にある木造2階建ての家屋に一級建築士の夫と住まう。
趣味は、長唄三味線、能。
バックナンバー
第1回 ちゃぶ台マジック
第2回 板の間に遊ぶ
第3回 制約の妙
第4回 社交する家
第5回 音の美学
第6回 京都再考
第7回 屏風恋慕
 
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