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美しさと、強さと、自分らしさ。

木の家で、日本の美に出逢う 田村こたみ

第3回 制約の妙

広々とした大きな空間と、小さく仕切られた狭い空間。さて、どちらがお好みでしょうか。おそらく人気があるのは、前者でしょう。でも、私はこぢんまりした後者の空間に好感を抱いています。

それというのも、感覚的に狭く感じる空間には、ぷっと張ったような緊迫感があるからです。三間四方の能舞台も、演劇の舞台としては極端に狭い。けれどその制約があるからこそ、ある深みに誘い込まれるように感じます。
これと似たような意味合いで、着物も大変魅力的な衣裳だと思います。大股で歩けない、大きな袖が腕の動きをさまたげる。まるで制約のための衣裳のようです。そもそも平面的な布で、丸い身体を包むのですから、着付けからして難度が高い。着やすく改良されてもよさそうなものですが、そこが日本人のおもしろいところで、着付け自体を楽しんでしまう。事実、自分の体型に合わせて衿の合わせ方や抜き加減、帯の締め具合、裾のまとめ方などをきめ細かく調整できて、工夫のしどころが多い。着物は、個性を表現する楽しみにあふれています。

和箪笥の写真
おさがり家具1
古い家に住んでいると、不思議と和系の道具が集まってくる。古い和箪笥は、着物の収納にとても便利。2段ずつに分けて使うこともできる。

それに袖(そで)という存在が大変面白い。手を遠くに伸ばそうとすると袂(たもと)に手を添えなくてはなりませんが、その仕草はなかなか趣があります。また、手先を袖に入れて隠してみたり、はたまた、はしゃいで袖を揺らしてみたり。このふわりと垂れ下がった袖が、和装ならではの美しい所作を導き出し、言葉や表情で伝えきれない微細な「情」を仕草として見事に表現してくれます。

ところで、歌舞伎では舞台上で登場人物がよく着替えをします。普段着の着物を脱いで裃(かみしも)を着用したり、浴衣に着替えたり。さすが歌舞伎俳優さんは着物に馴染んでいて、手慣れた動作が鮮やかです。何気ない着物の着替えですら一種の芸のようですから、少し前の日本では、生活風俗自体が美しい芸の塊だったのかもしれません。

鏡台の写真
おさがり家具2
ある大臣の別荘にあったという由緒ある和鏡台で、恩師から譲っていただいた。使い勝手もよく、毎朝お世話になっている。

制約という切り口で日本文化をみわたすと、さまざまな発見があります。開明な場ではなく、堅牢な箱の中に、ミソはつまっているのかもしれません。
文月

着物の写真
着物を着る予定がなくても、ときどき抽斗から取り出して、眺めたりする。しゅるしゅるという衣(きぬ)ずれの音、しっとりした手触り、精緻な技術。じかに触れられる美術品のよう。

今月のおすすめBook

鈴木眞砂女句集 卯波
鈴木眞砂女句集 卯波
(1996 邑書林 絶版)
俳句は、究極の制約の文学。鈴木眞砂女(すずきまさじょ)は、久保田万太郎らに師事した俳人。「蝉鳴くや涙を吸ひし畳の目」「香水の一ト瓶終わり花の雨」など、色香漂う句も多く、下駄や夏帯など和装アイテムもよく登場する。ほかに『鈴木真砂女全句集』(角川書店)など。

著者プロフィール

田村こたみ
田村こたみ
1969年生まれ。編集者・ライター。歌舞伎関連の編集など、日本の伝統芸能をテーマに活動。東京都品川区の下町にある木造2階建ての家屋に一級建築士の夫と住まう。
趣味は、長唄三味線、能。
バックナンバー
第1回 ちゃぶ台マジック
第2回 板の間に遊ぶ
第3回 制約の妙
第4回 社交する家
第5回 音の美学
第6回 京都再考
第7回 屏風恋慕
 
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