


わが家は、品川駅のふもとに位置する古い商店街にあります。すぐそばには巨大グローバル企業の高層オフィスビルがひしめいていますが、こちらは家族経営の畳屋さん、和菓子屋さん、築地に出入りするマグロの仲買人さんなど、江戸時代さながらの「ムラ社会」「ムラ経済」が健在です。
このまちに暮らしはじめて、約10年。かつては「住むまちは、便利がよければそれでよい」と思っていた私ですが、今はガラリと考えが変わりました。信頼できる人たちがすぐそばに住んでいて、男の人たちもこのまちで働き、そして夜もご近所でお酒を飲んで遊んでいる。そんな「コテコテ人情のまち」、すなわちこの土地が私にとって理想のまちとなりました。もちろん狭い社会では厄介事も多々あります。でも、なにかあれば世故に長けた人物がうまくまとめてくれますし、すべてをひっくるめて、よそ者の私の目には、「ムラ」がとても楽しい社会であるように映ります。
「ムラ」の特徴なのかどうかわかりませんが、このあたりには、玄関先に小さな土間をもつ家が多くあります。道を歩いていて、家の人と目が合うと「ちょっと座って」と誘われ、小さく腰掛けておしゃべりをします。内と外の隔たりが少ないというか、実におおらか。影響されやすい私は、すっかり土間のファンになり、小さくてもいいから「うち」のなかに交流空間を持ちたいと考えていました。この家の間取りを考えるとき、一番時間を費やしたのは、この交流空間。なにしろ狭い家なので難儀しました。そして、なんとか実現。今はときどきご近所の奥様を招いて、夜のティータイムを楽しんでいます。
文化は突然降ってくるものでなく、日々の小さな交流のなかで、じわじわと育まれるものだと思います。江戸時代には庶民が文化の担い手となって歌舞伎という大きな芸能を花開かせました。現代に生きる私も、なにか少しでも文化の糧になれたら楽しいな。小さな屋根の下で、ちょっと浮かれた夢をみたりしています。
葉月





Copyright(c)2006 New Constructor's Network. All rights reserved.