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美しさと、強さと、自分らしさ。

木の家で、日本の美に出逢う 田村こたみ

第4回 社交する家

わが家は、品川駅のふもとに位置する古い商店街にあります。すぐそばには巨大グローバル企業の高層オフィスビルがひしめいていますが、こちらは家族経営の畳屋さん、和菓子屋さん、築地に出入りするマグロの仲買人さんなど、江戸時代さながらの「ムラ社会」「ムラ経済」が健在です。

このまちに暮らしはじめて、約10年。かつては「住むまちは、便利がよければそれでよい」と思っていた私ですが、今はガラリと考えが変わりました。信頼できる人たちがすぐそばに住んでいて、男の人たちもこのまちで働き、そして夜もご近所でお酒を飲んで遊んでいる。そんな「コテコテ人情のまち」、すなわちこの土地が私にとって理想のまちとなりました。もちろん狭い社会では厄介事も多々あります。でも、なにかあれば世故に長けた人物がうまくまとめてくれますし、すべてをひっくるめて、よそ者の私の目には、「ムラ」がとても楽しい社会であるように映ります。
「ムラ」の特徴なのかどうかわかりませんが、このあたりには、玄関先に小さな土間をもつ家が多くあります。道を歩いていて、家の人と目が合うと「ちょっと座って」と誘われ、小さく腰掛けておしゃべりをします。内と外の隔たりが少ないというか、実におおらか。影響されやすい私は、すっかり土間のファンになり、小さくてもいいから「うち」のなかに交流空間を持ちたいと考えていました。この家の間取りを考えるとき、一番時間を費やしたのは、この交流空間。なにしろ狭い家なので難儀しました。そして、なんとか実現。今はときどきご近所の奥様を招いて、夜のティータイムを楽しんでいます。
文化は突然降ってくるものでなく、日々の小さな交流のなかで、じわじわと育まれるものだと思います。江戸時代には庶民が文化の担い手となって歌舞伎という大きな芸能を花開かせました。現代に生きる私も、なにか少しでも文化の糧になれたら楽しいな。小さな屋根の下で、ちょっと浮かれた夢をみたりしています。
葉月

テーブルのある室内写真
我が家の土間スペース
玄関を入ってすぐ。お客さんが私空間を通らずにお手洗いに行けるよう、間取りも工夫した。すぐ裏はキッチンなので、お茶を出すにも便利。勝手に「縁側カフェ」と名付けて楽しんでいる。
まぐろの写真
築地魚市場
近所のマグロの仲買人さん一家と親しくさせてもらっている。この家のお嬢さんが夏休みの宿題で父親の仕事をレポートするというので、付き添いをさせていただいた(深夜3時出発!)。築地市場には、江戸の風情、気質がたっぷり残っていて大興奮!
朝顔の写真
下町の園芸熱
このあたりは、狭い路地にぎっしりと植木の鉢が並んでいる。咲いた花をほめたりしていると、話もはずむ。影響を受けて、ベランダで朝顔を育てはじめた。

今月のおすすめBook

松竹歌舞伎検定公式テキスト
松竹歌舞伎検定公式テキスト
(2008 マガジンハウス)
今年の秋に初めて実施される「松竹歌舞伎検定」の公式テキスト。歌舞伎の歴史や演目、音楽などがわかりやすく解説されているので、観劇の予習にも役立ちそうです。また歌舞伎の歴史を軸に、江戸文化の総復習をしてもおもしろいかもしれません。

著者プロフィール

田村こたみ
田村こたみ
1969年生まれ。編集者・ライター。歌舞伎関連の編集など、日本の伝統芸能をテーマに活動。東京都品川区の下町にある木造2階建ての家屋に一級建築士の夫と住まう。
趣味は、長唄三味線、能。
バックナンバー
第1回 ちゃぶ台マジック
第2回 板の間に遊ぶ
第3回 制約の妙
第4回 社交する家
第5回 音の美学
第6回 京都再考
第7回 屏風恋慕
 
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