2016.11.10

限られた空間を生かしたカフェ併用住宅

限られた空間を生かした
カフェ併用住宅

壁のない空間や吹き抜けで狭小をのびやかに見せる

スカイツリーが目前の隅田川沿いにあるK邸は、敷地面積45㎡、延床面積62㎡という都会の狭小住宅だ。しかも1階は店舗として活用。限られた敷地を生かして効率よく、快適に暮らしている。敷地面積45㎡の狭さであるが、耐震に優れたSE構法だからこそ木造でも3フロアを確保できた。また、抜けのあるLDKや吹き抜けも実現。玄関にアプローチスペースをとった分、1階より2階の床面積のほうが広い設計が可能になったのも、SE構法ならではのメリットだ。

1階は奥さまが経営するカフェ兼インテリア雑貨のショップ。その奥には納戸があり、店舗のオフィスとしても使用している。2階は住空間で、ダイニングキッチン、リビング、浴室をコンパクトに収めた。実際の面積よりも広く見えているのは壁や柱の少ない空間構成のおかげだ。リビングの天井は構造部分をあえて見せ、吹き抜けにした。奥の浴室は扉をガラス素材にしたため、建物の端から端までが見渡せる。その上は寝室として使用しているロフトスペースとバルコニー。ロフトの格子床が縦方向にも広く感じさせる。大通りに面したベランダは壁で囲んで外からの視線を避け、中から外が眺められる小さな窓をつけた。都会の中心にいるとは思えないほど開放的で、夕暮れ時にはワインを楽しんでいるという。

理想は自分たちの手による唯一無二のオリジナルな住まい

以前はご主人の勤務先に近かった東京郊外に住んでいたご夫妻。そのころに東日本大震災が起こり、やりたいことをしなくては後悔する、と奥さまは夢だったカフェを開業したそう。その後、ご主人が都心に異動になり、お二人の実家に近く、雰囲気にひかれていた蔵前に土地を探すことにした。「職人が多く住む蔵前らしく、自分たちで手づくりの家をつくりたかったんです」とご主人。天井以外の壁はすべてご夫妻で塗ることに決め、欧米の古いアパートメントのような風合いにするために、適度なむらを残して仕上げた。建具や棚の材料も、実際に使われてきたヴィンテージのものを探して、取り付けたそう。「ドアは前のお店のものをそのまま使用しています」と奥さま。長く使われてきた木材のためかなりの歪みがあったが、その角度に合わせてドア枠を設計した。店舗の棚として壁に埋め込んだのは建築現場の足場として使われてきた頑丈な板。古いものならではの深い味わいがある。

経験に基づくアドバイスが手づくり感覚の家を実現

限られた土地で快適に暮らしたいという願いをかなえたのが、都心の狭小住宅づくりで定評のある工務店、ホープスだった。

エンジニアとしてOA機の設計を手がけてきたご主人は、その経験から住宅設計でもいちばん大事なのは骨格だと確信していた。そのため、耐震性があり一棟一棟、構造計算をしているSE構法に共感。「業務用のインダストリアルな仕上げなど、予算面だけでなくデザインイメージを共有できたのも決め手でした」と、ご主人は振り返る。古い木材の建具をうまく収める方法、エアコンを極力使用せず、風の通り抜けを重視したパッシブデザインの窓の配置など、経験に基づいたアドバイスにも、その都度、納得したそう。そして最重要課題である空間の有効活用は、柱のデッドスペースを収納棚にしたり、洗濯機を無理に水まわりに収めず、リビング横に収納するなど、発想の転換により解決した。

快適なLDKでは3匹の犬たちが駆け回っている。「街にアクセスしやすいので散歩が楽しくなりました」とお二人。清澄白河のカフェやギャラリーをめぐるなど、都会での暮らしを満喫している。「この家に住むようになってから、勤務後は自宅でゆっくりし、週末も地元で過ごすことが多くなりました」。

取材・文 間庭 典子

K邸

設計 清野廣道(ホープス) 施工 ホープス
所在地 東京都墨田区 家族構成 夫婦+愛犬
延床面積 45㎡ 構造・構法 SE構法

この家を建てた工務店

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