2016.02.09

環境をコントロールする±ゼロの住宅

環境をコントロールする
±ゼロの住宅

エネルギーを上手につくり
使う、±ゼロの環境づくり

家を建てる計画を具体化しようと思った矢先に起きた2011年3月の東日本大震災。その災害は家づくりを根本から考え直すきっかけとなった。「電力不足が社会的に問題となり、エネルギーをどのようにつくり出すかが課題となりました。自家発電によって消費する電力を個人宅でもまかなえるのではないかと思い、リサーチを重ねていました」とご主人。耐震を第一に考え、±ゼロエネルギー時代を目指す考えに共感し、「超快適&ゼロエネ研究所」として情報を発信しているエヌテックに設計を依頼した。

太陽熱を効率よく受け止められるよう屋根の角度を計算し、日中は海のある南東から、夜は山側から風が吹く広島市の気候に合わせて窓を配置。「すべてデータを基に説明いただいたので‘なるほど’と理論として納得できました」とご主人。

実はKさんご夫妻は研究・調査を専門とする科学者。知的好奇心をもち、効率のいいエネルギー消費、自家発電などについて幅広く調べるうちに、湿度をコントロールする‘デシカ’というシステムに興味をもった。デシカとは湿度制御が可能な空気清浄システム。少ないエネルギーで室内を快適な湿度に保つことができる。「温度と同じくらい湿度も快適な環境に欠かせないと思ったのです。デシカは主に大きなビルなどでは採用されていますが、住宅ではほとんど例がありませんでした」。

デシカのための空気の通り道を
確保し収納スペースとして生かす

もちろんエヌテックとしても個人宅にデシカを導入するのは初めての試みだった。「家全体にダクトを巡らせる必要がありました。そのため中央にデシカを設置し、そこから枝のように各部屋にダクトを伸ばし、空気の通り道を確保しました」と谷口護さん。ダクトを配した壁はその厚みを生かして書棚や収納スペースとして活用した。

その結果、完成した湿度制御システムは想像以上に快適だった。「雨の日でもすぐからっとした空気になり、予想以上に快適な環境をもたらすことを実感しました」とご主人は満足そう。

もうひとつご夫妻が追求したのは木そのものがもつ素材感。どのスペースもそのままの木目を生かした床や壁、天井でまとめ、木の香りに包まれるリラックスできる空間にした。リビングの中央には紙素材の畳を敷き、まだ幼い娘さんたちが汚れを気にせず、思いっきり遊べるように工夫した。

庭につながるLDKや水まわり、クローゼットがある1階と、寝室や書斎、遊び部屋として活用できるライブラリースペースの2階の上には、収納に使えるロフトスペースが広がっている。ロフトから、下で作業する家族や遊んでいる子供たちの姿が見渡せ、それぞれ別のことをしていても同じ時間を過ごすことのできる空間がLDK以外にも存在する。

地元広島の工房にこだわって
木の家具でコーディネイト

木の温もりを感じる家には木の家具が似合う。優れた木材が多い地元広島には家具の工房が多くあり、ご夫妻は直接足を運んで選び、少しずつ揃えているそう。深澤直人さんによるデザインの「ヒロシマ」のダイニングチェアをはじめ、ソファなどの家具はマルニ木工のもの。人や環境にやさしい家具づくりをし、接着剤に至るまでWHO(世界保健機関)の基準を完全にクリアした安全な素材のみを使用している。「ラウンド型のテーブルは家族4人で食卓を囲むときはもちろん、お客さまがいらして大勢で集まる時も全員で座れ、思った以上に便利で使いやすいんです」と奥さま。

階段下のワークデスクに置かれたスツールも広島にある五十六製作所という工房のものだ。北欧風と和モダンが融合したようなデザインに味がある。「座面には地元出身の染色家、小野豊一さんの型染の布を使っています」地元の産業や文化を大事にしたいと語るご夫妻。「どの県でも地域でも、その土地、土地に素晴らしい地産があると思います。地元の産業に目を向け、毎日の生活の中に取り入れていきたいですね」。

取材・文 間庭 典子

K邸

設計 谷口護 施工 株式会社エヌテック
所在地 広島県広島市 家族構成 ご夫婦+子供二人
敷地面積 195㎡ 延床面積 114㎡
構法 SE構法 規模 2階建て+ロフト

この家を建てた工務店

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