2018.12.21

勾配の屋根が家族を包むひとつながりで安らげる家

勾配の屋根が家族を包むひとつながりで安らげる家

のぼり梁の勾配天井で一体感のある大空間に

住み手の杉浦徳利さんは大学の建築学科で教壇に立つ建築士。今回、自邸を新築するにあたり、実家の新築時に続き、自ら図面を引いた。「まず考えたのは家全体が同じ空気でつながっているような、一体感のある空間です」と杉浦さん。そして生まれたのは、南側の高さ5.6m、北側の高さ約3mの大きな一枚の勾配天井が家全体を包み込み、構造をむき出しにした“のぼり梁”が天井高を強調する家だった。「木のぬくもりを生かした木造住宅で暮らしたいと思っていました。木造との境を壁で完全に仕切ってしまうことなく、天井部分を見せている。その結果、温かみとダイナミックさを両立した空間が得られた。
丘陵地に建つ邸宅は、その絶景も自慢だ。自然の風景を身近に感じられる環境を、と長きにわたって探した末、甲子園にも近い西宮市のこの地に巡り合えた。敷地はやや北に傾いた東向きで、道路から駐車場部分の約6.5mを残して約3mの落差がある。「高低差もあり、クリアしなくてはならない課題も多い土地でしたが、そのほうが工夫しがいがあっておもしろいじゃないですか」と果敢に挑んだ杉浦さん。玄関のある1階部分にLDK、地階は寝室や浴室などプライベートなスペースをまとめた。特筆すべきは、露天感覚でつくった絶景風呂。手前にウッドデッキのテラスが見えることで山林との遠近差が生まれ、入浴時には、より景色に奥行きを感じられるようにプランニング。朝日に輝く水平線も、街の光がきらめくでありながら自由度の高さ、震災などから家族を守る構造計算に基づいた強度を考えると、SE構法を選ぶのは必然でしたね」と振り返る。視覚的にも一体感を得られるよう、玄関ホールとLDK夜景も、この敷地に建てた家だからこそ得られた貴重な財産だ。

自然に囲まれた環境で地球のエネルギーを取り入れる

さらにこの住まいでは、一年中、快適な環境で過ごすためのパッシブデザインも大きな目標だった。「山林側の夏の日射を遮りつつ、冬の自然光をどう取り入れるかが鍵でした。南側の天井を高くし、そこからの日射を確保しています」と杉浦さん。キッチンとダイニングよりも少し高いフロアレベルにして寝転がることもできるリビングは、太陽のエネルギーを取り込んで冬でもぽかぽか。床で過ごしても暖かい室内環境を保ち、大空間を緩やかにゾーニングすることでくつろぎのスペースが確立。大きな屋根の下で家族が守られ、安心して暮らせる快適な木の住宅だ。

 
取材・文 間庭 典子

S邸

設計 杉浦徳利 施工 タイコーアーキテクト
所在地 兵庫県西宮市 家族構成 夫婦+子供1人+犬
延床面積 152.60㎡ 構造・構法 SE構法

この家を建てた工務店

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