2022.07.04

組子格子がアクセントのミニマルな町家

坪庭を利用しゾーニングする、コの字型LDKという選択

伝統と革新が混じりあう
進化系京町家の中心的な坪庭

京で受け継がれてきた知恵や様式美、シンプルモダンなデザインや最新技術による住みやすさ。そんな相反する伝統と革新がうまく融合されたのが、進化系京町家ともいうべきこのK邸である。間口が狭く、奥行きが深い、いわゆる「ウナギの寝床」。そんな縦に長い敷地を生かし、中央に中庭を配した。典型的な町家の間取りで、その坪庭から室内全体に届く採光を確保している。
坪庭は1階の寝室や廊下に面し、玄関から移動するたびに目を楽しませてくれる。家族が集まる2階のLDKは坪庭を囲むようにしたコの字型で、中心にあるこの空間は、採光はもちろん、キッチンダイニングとリビングに程よい距離感をもたらす。ワンフロアであって、それぞれのスペースで邪魔されずに過ごせるよう、さりげなくゾーニングされている。それを助けているのが、リビングの開口部のアーティスティックなデザインだ。

LDK全体の要となるのは
富山の工房に依頼した匠の手技

「ご主人のふるさと、富山の伝統工芸である組子格子です。リッツ・カールトン京都でも採用されている『タニハタ』の格子を特注し、富山まで訪れ、綿密に打合せしました」と設計を担当した住まい設計工房の蘇理裕司社長。組まれた格子の緻密で寸分共狂わない匠の技に驚く。「医療に携わり、日々、忙しく過ごされているご主人が、オンからオフに切り替え、心からくつろげる住まいとなることを願いました」と蘇理社長は語る。このモチーフとなっている七宝柄は、円を重ねた伝統文様。輪がつながる様子から、縁結びや人との調和など、円満を願う吉祥柄として古来から愛されてきた。
中庭に面した開口に配置することで、リビング側と庭を挟んだダイニング側の両方から組子格子を眺められるようにした。組子格子を立体的に、美しく照らす間接照明を施し、影や凹凸を際立たせて、落ち着ける空間に仕上げている。最大限まで伸ばした高天井はあえて構造部分を見せて飾り梁とし、斜め天井で開放感を演出した。

ムードをがらりと切り替える
壁一面を彩るテクニック

ロフトもあり空間をフルに使ったK邸だが、実は延床面積は96.65㎡。LDKのある2階は53.33㎡である。限られた空間に変化をつけ、気分をがらりと切り替えてくれるのが、一面だけ大胆に色や素材を変えた壁。リビングの意匠はもちろん、各所の壁の色や素材を変えて奥行きを出している。例えばロフトへ続く階段があるリビング西側の壁一面、青みがかった紺鼠のようなグレーにし、奥行きを感じさせた。また、寝室の天井には和紙のような風合いのある浮き出し加工を施したベージュを選択。「子供部屋には、小鳥や花をあしらったフランス製の壁紙を選びました」と奥さま。それぞれの部屋に合わせてコーディネートを楽しんだそう。
「住まいは家族を包み込む器。気兼ねなくくつろぐ住空間が、世界平和へつながると信じています」と蘇理社長。しっかりとした構造は、デザインの自由度を高める。「SE構法なら、在来工法では難しかった大空間や大開口が木造であっても可能です。数値で頑強さを確認でき、かつ耐震等級3も得られるので、災害に対しても、備えあれば憂いなし。家造りという冒険を楽しみましょう!」。

取材・文/間庭典子

K邸
設計施工 住まい設計工房 所在地 京都府京都市
家族構成 夫婦+子供1人 敷地面積 89.92㎡
延床面積 96.65㎡ 構法 木造SE構法

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