2019.03.18

ミニマルで美しい究極のガレージで暮らす

ミニマルで美しい究極のガレージで暮らす

抜けのいい立地を生かし、構造の限界に挑戦

多摩川にせり出した土地の先端にあり、三方向に抜けた3階建てのK邸。視界を遮るものは何もない、リバーサイドの眺望が素晴らしい立地だ。「川沿いの角地をグーグルマップで探すことから始めました」と住み手のKさん。世田谷区に三カ所その条件に当てはまる土地を見つけ、うち一つが売りに出されていた。敷地ぎりぎりまで住宅地として有効活用できるのではないかとひらめき、行政に交渉。河川保全区域であり風致地区でもあり、建築物を造る上では制限の多い土地ではあったが、ここでなら理想の空間を実現できるという手応えを感じ、家を建てることを決意した。
実はKさんはリフォームを専門とする建設業のプロ。空間イメージはスタート前に、すでに具体的にまとまっていた。「それを実現できる工法は在来木造では不可能。それ以外の木造や鉄骨造など10社以上で検討したのですが、SE構法がいちばん自由度があり、耐久性に優れていると確信したんです」と振り返る。その後、構造設計者と話し合いを重ね、粘り強く検討していった。
「SE構法の可能性に挑戦した事例でした」とK邸の設計を手がけたホープスの清野廣道社長は振り返る。「なかでも軒高9mの中で、いかに2階のLDKからの眺望を確保しつつ、階高を配分するかが課題でした。そのバランスを多摩川の土手の高さを計測しながら、ミリ単位で調整しました」。

家全体がガレージという趣味の空間で過ごす

Kさんの構想は「趣味の空間に住むこと」。車を眺めるガレージギャラリーではなく、ガレージそのものが居住空間というプランだ。玄関の扉を開くと空間を貫くような長いスケルトン階段が目に留まる。1階のガレージには仕切りがなく、2階のLDKと大きな吹き抜けでつながっている。Kさんがカートのメンテナンスに集中していても、LDKにいる奥さまの気配を感じながら過ごせる。「キッチンからパンやピザを焼くにおいがしてきて、ふと手を休めることも」とKさんは笑う。階を隔てても会話できる心地よい距離感だという。
この家に暮らすようになって友人が集まる機会も増えた。「週末はバイクや自転車で友人がやってきて、バーベキューを楽しんでいます。ガレージなら床を汚しても気にならないし、そのまま河川敷にも出られて、ゲストが連れてきた子供たちも大はしゃぎです」とKさん。夜が深まると2階
のLDKに移動し、ゆっくりワインを楽しむそうだ。

理想のライフスタイルを基軸にした家造り

2階のLDKは黒と白のモノトーンで統一されたラグジュアリーな空間。スチールやタイルなど硬質なテクスチャーを多用し、ライトアップするキッチン下の飾り棚はKさん自らが設計した。チャールズ・レニー・マッキントッシュのラダーバックチェアやイサム・ノグチの「コーヒーテーブル」などの名作家具は、以前の住まいでも愛用していたものだ。
「私も仕事の際は、リフォームを希望するお客さまに対して、今後どのような暮らし方をしたいかを細かく尋ねています。10社以上相談した中で、ホープスさんはどんな暮らしが理想か、どんな家具を新居に持っていくかなどを具体的に聞いてくれました」とKさん。器としての家ではなくライフスタイルをともに築こうとする姿勢、それが家造りのパートナーには必要だとKさんは語った。

取材・文/間庭典子

K邸

設計施工 ホープス 所在地 東京都世田谷区
家族構成 夫婦 延床面積 154.67㎡
構法 木造SE構法

この家を建てた工務店

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