2016.05.19

風や光を取り込んだパッシブデザインの住宅

風や光を取り込んだ
パッシブデザインの住宅

日本でも広まりつつある
パッシブデザインの木の家

東大阪市にあるN邸は11mの広々とした間口を生かした「パッシブハウス」。自然のエネルギーを利用し、夏は涼しく、冬は暖かく、冷暖房にかかるエネルギーが最低限で抑えられるように設計されている。「パッシブの由来は受け身という意味の英語、Passiveからきています。建物そのものが持つ性能を上げ、風や太陽のエネルギーを効率よく受けとって、冷暖房に頼らずに快適に過ごすことを理想としています」と設計担当の山村泰代さん。
パッシブハウスは、ドイツを拠点に西ヨーロッパで普及。近年は日本でも各地方の気候に合わせたパッシブハウスの研究が目覚ましい進歩を見せる。日本独特の梅雨を快適に過ごせるよう、窓の配置によって家全体の空気を循環させるような風の通り道を確保したり、調湿する塗り壁や無垢の木材を使用するなどして、自立循環型を目指す住まいが増えた。しかしそれには、断熱材などの素材のセレクトや、気密・断熱の施工などの高い技術、緻密な熱損失や消費エネルギーの計算が求められる。「木材には一本一本個性があり、強度が測れないため、木造住宅でのパッシブデザインは困難だという声もありましたが、耐性が高く、一定の強度が保たれた集成材を採用し、特製のSE金物を使うSE構法の誕生によって細かい構造計算が可能になりました。これによって、日本のライフスタイルに合ったパッシブデザインの木の家が実現できるようになったのです」と山村さん。光熱費も抑えられ、地球環境にも優しいエコデザインだ。

生活にストレスを感じない
効率的な動線と収納力

実際にN邸を訪れてみると、のびのびとしたLDKは驚くほど明るく開放的。和室、リビングに面した開口部は中庭とつながっている。「昼間に照明を使うことはほとんどありません。どの部屋にいても光と風を感じられます」と奥さま。中庭の白いタイルは太陽光を反射し、リビング全体に柔らかい光を回している。ここへ越してから、グリーンがとにかくよく育つようになったそう。天気のいい日には中庭や2階のバルコニーにチェアを持ち出し、読書を楽しむことも。「白い外観のアクセントにもなっている庇は、夏の強い日差しを遮断する役割も担っています」と山村さん。
段差をつくらずリビングとワンフロアでつなげた和室は、息子さんの遊び場などさまざまな用途で活用。「玄関からそのまま和室に入ることができ、荷物をたくさん抱えて帰ってきたときも、まずはここに置けて助かっています」と奥さま。レイアウトは光や風だけでなく、人の行き来もしやすい動線に工夫されている。もちろん、使い勝手も考え抜いた。「キッチン裏のパントリー、玄関のクローゼットには収納スペースを十分に設けました。表に出る家具は最小限に抑えた結果、部屋が散らからないのもうれしいです」。家事にストレスを感じない毎日になった。

落ち着きのある無垢材に映える
黒とグレーを基調にしたインテリア

タイコーアーキテクトでは一軒につき、設計、インテリア、工事進行など約4人がチームを組んで家づくりをサポートしている。「インテリア担当の林さんに相談しながら家具を選びました。黒を生かしたシャープな空間なので、木のダイニングテーブルより、モダンな黒やグレーを選んだほうがバランスがいい、など実際に配置してみて納得するアドバイスも多かったです」とご主人。3次元モデリングのソフトウエア「スケッチアップ」で実際に家具を配置してみた際は、さすがプロの意見とうなった。キャビネットやダイニングテーブル、ラグなどはイタリアのカリガリスでコーディネイト。「林さんのアドバイスに従って、グレーやスチールなどメンズライクな色や素材の家具を選びました」とご主人。クールで落ち着いた大空間になった。
夏は涼しく、冬は暖かい。開放的でデザインにも優れ、五感で心地よさを体感できるパッシブデザインの家は、進化系木造住宅としてこれからさらに注目されそうだ。

取材・文 間庭 典子

 

N邸

設計 山村泰代(タイコーアーキテクト) 施工 タイコーアーキテクト
所在地 大阪府東大阪市 家族構成 夫婦+子供1人
敷地面積 175.43㎡ 延床面積 159.82 ㎡
構造・構法 SE構法 規模(階数) 2階建て

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