2019.09.17

安らぎと洗練が同居する昭和モダンな邸宅

 
 

和×イタリアのミックススタイルで風格漂う空間に

テラスとLDKをつなぐ木枠に囲まれた大開口

O邸が立つのは都内有数の高級住宅街。どこか懐かしさを感じさせるシックな佇まいが、閑静な住宅地に調和している。第一種低層住居専用地域のため建蔽率が40%と低く、車庫を確保してもまだ敷地には余裕があった。南側には隣家が迫り、日照や通風は期待できないという状況や、北側斜線制限により天井高が低くなるのを避けるという理由から、北東にテラスを置くことに。メンテナンスが容易なデッキ敷きにし、LDKの一部として取り込むこのプランには、柱のない大きな空間をつくれるSE構法は最適だった。
玄関の扉を開けると窓の外にテラスが広がる。LDKの1面は大開口でそのテラスとつながっており、奥にあるキッチンの窓からも自然光が降り注ぐ。1階のほとんどはLDKとそこに隣接する和室から成り、和室の大きなアールを描く下がり壁が印象的だ。
「LDKのある1階は天井高3.2mの迫力ある大空間です。階段の段数も増えるため、和室の天井高を調整して、途中で一度休めるような広い踊り場を設けました」と設計をしたクウェスト代表の可児義貴さん。ライブラリーコーナーとしたそのスキップフロアは、ピアノの練習室も兼ねている。足元からLDKの柔らかい光が差し込み、家族の気配が感じられる。
 

床材のジャトバを基調とした木材に包まれたLDK

昭和の邸宅のような落ち着きと風格があり、なおかつモダンな家を実現するために追求したのは天然素材。床材は全体の印象を左右するので、多くのサンプルを実際にOさんに手に取ってもらったという。その結果、赤みがかった木肌で光沢があり、強靭で耐久性にも優れたジャトバが選ばれた。階段の手すりや大開口のサッシのカバー、壁などにも採用。階段の壁には、通常は外構などに使用する天然石のスレートを積み、外部のデッキ敷きのテラスと一体感を出した。
「弊社では20年以上前からSE構法で住宅を手掛け、メンテナンスを続けてきたので経年の状況を把握しています。また、時間をかけて形成された天然素材は劣化が遅く、時を重ねるほどに味わいが深まるんです」と可児さん。クウェストでは目新しさより、劣化の少ない施工方法を勧めるようになり、「竣工直後の端正さより、25年後にどう変化しているかが勝負どころ」と可児さんが言うように、O邸でも普遍的な美しさを追求した。
 

コラージュで理想を共有し具体化しながら育てていく

住み手の希望を最大限引き出すため、クウェストでは雑誌を切り抜くコラージュ製作を住み手への「課題」としている。「この照明の感じが好き、このあたりのごちゃごちゃは気になるなど、いい点、悪い点、両方のコメントも書き込みました。木枠の窓や丸い下がり壁は、この頃から希望していたんですね」とスクラップブックを手に振り返る奥さま。漠然としたイメージを設計者と共有し、確かなものにしていく中で、想像を超える感動が生まれるという。そのためなら労もいとわない可児さんは、家具選びに海外まで同行したことも。
このO邸でも、大空間の迫力に負けない規格外の家具を求め、都内の多くのショールームをOさんと訪れ、ミノッティのソファにしたのだという。
ダイニングテーブルもLDKの規模に合わせて造作。こうして和とイタリア家具が調和し、心からくつろげる「昭和モダン」な邸宅が完成した。
 

取材・文/間庭典子

O邸

設計施工 クウェスト 所在地 東京都世田谷区
家族構成 夫婦+子供2人 延床面積 154.86㎡
構法 木造SE構法

この家を建てた工務店

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