2019.07.29

家族の未来を育む進化系二世帯住宅の在り方

 
 

家族全員で子育てをサポートできる二世帯住宅

「子育てはみんなで取り組んだほうがいい」というSさんの一声で、Sさん一家は東京から奥さまの実家のある東大阪市に拠点を移すことを決断。まだ小さなお子さん3人を連れての移住だった。
実家を建て替え、1階に奥さまの両親世帯、2階をSさん世帯と居住フロアを分けるプランにした。玄関は一つにし、応接間代わりの和室は二世帯で共有し、使っている。
「帰宅が深夜に及ぶこともあるので、玄関は同じでも、眠りを妨げないように意識しました」とSさん。両親世帯の寝室はいちばん奥の西側に配し、階段を上る音や浴室を使用する生活音から遮断するように。夜更かしすることも多いSさん世帯の寝室は、逆の南端にした。L字型の対極に位置するため、お互いの気配は感じられない。1階の寝室はお母さまが小型のハープ、ライアーを演奏するスタジオとしても活用。2階のコーナーにはピアノも置かれているが、それぞれが気兼ねなく練習できるように、間取りを検討した。断熱性、気密性を高めた結果、防音効果も高まった。
 

それぞれの個性が際立つLDKのデザイン

それぞれの世帯のプライベートな空間は明確に区別しているが、玄関が共通なので、子供たちは両世帯を自由に行き来できる。「大のおじいちゃんっ子である末の息子は、毎晩一緒に過ごし、寝入った頃に父に抱きかかえられて2階に上がってくるんですよ」と奥さまは笑う。お父さまはつい最近まで中学校の校長をしていた教育のプロでもある。お母さまは祖父から譲り受けた骨董を大切にし、空間作りに役立てている。1階のLDKを絵画やアンティークなどで飾り、緑いっぱいの古民家風に仕上げた。「蘭を育てるのが趣味なので、室内はいつでも15度以上に保っていたいんです。断熱効果も高いので、この冬は植物が枯れる心配が一切ありませんでした」とお母さまは微笑む。
一方、Sさん世帯が生活する2階のLDKは、シンプルモダンに。壁面にはオフホワイトの収納を造り、飾り棚にしてライトアップした。1階の床材が重厚さのあるアジアンウォールナットなのに対し、ブラックウォールナットの無垢材でカジュアルに。幅をすこし細めにしたのも、軽やかさを生む要因になっている。

幹線道路の前であることを忘れてしまう静寂な室内

設計施工を手がけたタイコーアーキテクトの羽柴仁九郎社長は、実はお父さまの教え子で、縁のある間柄だった。そんな羽柴さんが打ち合わせのためお宅を訪れた際に気になったのが、目の前の幹線道路をバスが通る際の音と揺れだったという。そこで、耐震性に優れたSE構法を用いること、高断熱高気密でパッシブな環境を作るダブル断熱を提案。「耐震性、断熱性を高めることは、防音効果にもつながります。また、建物の位置を十分に後退させるセットバックにし、そのスペースを庭にしました」と羽柴社長は胸を張る。羽柴さんのデータに基づく説明に納得し、教え子に委ねることにしたお父さま。その結果、手に入れたのは地震などの災害に対する安心感と室内の静寂だった。「家の近くに救急車が止まっても、気がつかなかったこともありました。静かすぎて困るくらいの環境になりましたよ」とお父さまも笑い、恩返しができたと羽柴さんもほっとしている様子。
家族の未来を育む二世帯住宅は、さまざまなトラブルから守ってくれる城でもある。

取材・文/間庭典子

S邸

設計施工 タイコーアーキテクト 所在地 大阪府東大阪市
家族構成 夫婦+子供3人+両親+犬 延床面積 272.53㎡
構法 木造SE構法

この家を建てた工務店

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