2022.12.05

空へと開いた日だまりの大空間

愛媛の恵まれた気候を
最大限に生かすスマートハウス

温暖な気候や環境に恵まれているためか、愛媛ではパッシブデザインに対する意識はまだ高くないという。その豊かな自然を生かす設計へとシフトしていきたいと、TOAHOMEの濱㟢 信社長は語る。先々代から土地を受け継ぎ、新築することにしたこのO邸は、最大限のパッシブデザインと、最小限のアクティブデザインを組み合わせ、省エネルギーを実現した好例。「祖父が家を建てた時代にはまだ周囲に建物はなかったのですが、次第に大きな建物に囲まれて日当たりが悪く、暗く寒い住環境になってしまいました」とOさんは振り返る。そこで常に明るく、温かい住まいを目指した。耐震性を確保したうえで、大開口や吹き抜けを実現できるSE構法を設計担当の清水健司さんは提案。「両脇が集合住宅、目の前が学校の校舎なので、ルーバーや高さのある塀で外部から見えないようにしています。それでもLDK全体に光が差し込むのは、約23㎡とゆったりとしたルーフバルコニーからの十分な採光があるからです」と清水さんは解説する。ここはアウトドアリビングや子供の遊び場にもなる。3階への階段や廊下は吹き抜けに面し、日中は常に明るい。廊下を拡張したようなスペースは子供たちが自由に遊べるプレイコーナーとした。成長後はライブラリーとして読書を楽しむ空間にする予定だという。
夏の高度の高い日差しは庇でカットし、冬は最大限の太陽熱を取り入れられるよう、緻密な計算を重ねた。外張り断熱や屋根断熱、ウレタン吹き付けなど断熱を強化。南面以外の3方はAPW430トリプルにするなど、用途に合わせて調整した。各所に配した高窓からは、風が心地よく通り抜ける。「デザインの自由度が可能となるSE構法とパッシブデザインの相性はよいと、改めて実感しました」と清水さんは語る。

大空間にメリハリをつけて
それぞれの居場所を配した

大空間には家族それぞれが、自分の時間を過ごせる居場所を用意した。例えば階段下の小上がりの和室は、少し段差があることで、ソファでくつろぐ家族が視界に入らず、テレビを見られる。キッチン横にはカウンターデスクを造作し、子供が宿題に集中できるスペースに。リビングからは死角になるため、互いの気配は気にならない。Oさんの要望はこもれるコンパクトな書斎。在宅でも効率よく仕事が進められる基地だ。

上質な素材が大空間を
より美しく、端正に仕上げる

Oさん夫妻と濱㟢社長は高校時代の同級生。そしてOさんは建材を扱う素材のスペシャリストでもある。キッチンのサイルストーン、テレビ側のタイルなど扱う上質な建材から選んだ。同じ白でも質感や風合いによってシンプルな大空間にリズムが生まれる。「生活の中で実際に触れてみて、いい素材はやはりいいと確信し、力強くお客さんにすすめられるようになりました」とOさん。毎回の打ち合わせは高揚したそう。「デッサンを描くように思うままに描いた設計図を、期待以上の機能で提案され、うれしい驚きがありました」とOさんは振り返る。
実は母体が左官職人を束ねた企業、濱㟢組だというTOAHOME。「ダイニングの天井は、濱㟢組に依頼しました」とOさん。道後温泉本館の修復工事も手掛けるという匠の技により、さらに上質な空間に。豊かな大空間が上質な素材の力によって、さらに格上げされた。

取材・文/間庭典子

O邸
設計施工 TOAHOME 一級建築士事務所 所在地 愛媛県松山市
家族構成 夫婦+子供3人 敷地面積 192.85㎡
延床面積 242.62㎡ 構法 木造SE構法

この家を建てた工務店

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