
家づくり対談
Vol.1
対談場所はタイコーアーキテクトのモデルハウス「LIFE」
- 星野貴行(左)
- ほしのたかゆき/星野建築事務所代表取締役社長。1977年新潟県生まれ。学生時代にアメリカで5年間過ごし、美術などを学ぶ。父の他界により帰国し、2代目として株式会社星野建築事務所に入社。住宅・商業施設を問わず、ディティールにまでこだわったデザインと高い性能を両立させている。
- 株式会社星野建築事務所
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〒950-0948 新潟県新潟市中央区女池南3-5-1
TEL 025-281-1599
従業員数:10人
設立:1990年(創業1977年)
http://www.roomz.jp
- 羽柴仁九郎(右)
- はしばじんくろう/タイコーアーキテクト代表取締役。1977年大阪府東大阪市生まれ。大学卒業後、銀行勤めを経て、祖父が創業したタイコーに入社。業界歴22年の間に携わってきた住宅は300棟を超え、家づくりから資金計画や住宅ローン、土地売買まで幅広く対応。「難しい注文住宅をわかりやすく伝える」がモットー。
- 株式会タイコーアーキテクト
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〒578-0971 大阪府大阪市鴻池本町6-32
TEL 0120-01-8500
従業員数:22人
創業:1969年
https://taiko-architect.com
第1回
タイコーアーキテクト & roomz星野建築事務所
敷地と家づくりについて考えよう
「重量木骨プレミアムパートナー」は、SE構法登録施工店約620社の中から、
デザイン力・施工技術・経営力に優れた64社だけが選ばれた、家づくりのプロフェッショナルです。
対談を通して、どのような信念や考えのもと家づくりに取り組んでいるのか、各社の代表や設計に携わる方にお聞きしました。
第1回目は、大阪を拠点にするタイコーアーキテクトの代表、羽柴仁九郎さんと、新潟を拠点にするroomz星野建築事務所の代表、星野貴行さん。
活躍が目覚ましく、プレミアムパートナーを牽引するお二人に、現在計画している都市型住宅「FLOOR」をとり上げながら、
都市型住宅や土地選びについて語り合っていただきました。
取材、文=植本絵美/写真=吉次史成
重要なのは、敷地選びと建物イメージのマッチング
―― まずは、お二人の会社について教えてください。SE構法を採用し、「重量木骨の家」に参加したのはいつからですか?

羽柴仁九郎(以下、羽柴):タイコーアーキテクト(以下、タイコー)は1965年に祖父が創業し、僕が3代目です。2代目の父は地元の鴻池新田を沿線の中で一番いい街にしたいと、建売住宅を開発していていましたが、僕の代から注文住宅を手がける工務店へとシフトしていきました。創業以来、木造一筋で、これまでに3400以上の家を建設してきました。
2004年から「重量木骨の家」に参加させていただき、そのネットワークを通じて全国のさまざまな工務店を交流する機会を得て、パッシブデザインや高気密・高断熱を学び、今はSE構法とパッシブデザインによる「強くて快適でちょっとかっこいい家」をコンセプトに家づくりを行っています。


星野貴行(以下、星野):roomz星野建築事務所は新潟を拠点に設計・施工を手掛けている工務店ですが、元々は父が創業した設計事務所が始まりです。アメリカの大学で学んでいた時に父が亡くなり、それで帰国し、稼業を継いだんです。SE構法を採用するきっかけは、2005年の姉歯事件(構造計算書を偽造した事件)の影響で計画していた非住宅の物件で鉄骨造の採用が難しくなり、木造に変更するため、耐震性のエビデンスがとれているSE構法を採用したのが始まりです。僕の代になって20年ほどですが、住宅と商業施設などの非住宅の両方を手がけています。


―― 家づくりの相談に来るお客さんは、敷地を購入する前、購入後、どちらのほうが多いのでしょうか?
羽柴:エリアを何となく決めてから、相談に来る方が多いですね。先に土地を買ってから相談するのではなく、検討をつけておいて家づくりのプロに見てもらい、この敷地ならどんな家が建つのか、自分たちの希望が叶えられるのか見極めてから購入したほうが絶対にいいです。
星野:うちに相談に来る方も、そのほうが圧倒的に多いですね。
羽柴:今は動画やSNSの写真で情報収集し、家に対するイメージが先行してしまいがちです。しかし、「どんなライフスタイルを送りたいのか」「長期的に家や土地の資産価値をどのように考えているか」など、他に考えておかなければならないことはたくさんある。それを最初に考えておかないと、イメージにとらわれすぎて、家づくりの一歩目からずれていってしまうんです。
星野:建てたい建物と敷地がマッチしていないという方は結構いますね。たとえば、買おうと思っている敷地が都内の閑静な住宅街なのに、建てたい家のイメージは近隣商業地域に建っているような、外からは何も見えないRC造の箱型のモダン建築だったり……。それだと周囲に圧迫感を与えてしまうし、用途地域と建物のイメージが合ってない。土地やエリアにもTPOがあるんです。
羽柴:まずは、その敷地やエリアでできること・できないことを理解してもらうことが大切。その上で、資金計画やアドバイスくれる工務店を選ばないと、地に足のついた家づくりにはならないと思いますね。

敷地のポテンシャルとパッシブデザイン
―― 敷地選びが重要だということですね。敷地がパッシブデザインにどのような影響を与えるのでしょうか。
羽柴:家づくりの成功は、半分が敷地選びだと言えます。敷地は「都市部」と「郊外」だけじゃなく、実はその間にもう一つのエリアがあるんですよ。大阪市の天王寺のようなマンションが立林するような都市部と、田んぼがある郊外はわかりやすいのですが、その間には都市部でも郊外でもないエリアがある。郊外の住宅地から少しずつ駅に近づいていくと、中高層の住宅エリアになりますよね?
もちろんどのような敷地であっても、我々はパッシブデザインをベースに設計していくのですが、敷地のポテンシャルがパッシブデザインの有用性を左右するんです。パッシブデザインの実績が多いと言っても、我々はマジシャンではないので、南方位にマンションが建っていると自然光が入りませんし、無理なものは無理なんです……。とはいえ、2階、3階部分で太陽の直射が得られることもあるので、可能性を上に求めて設計していきます。
まず住み手によって車への考え方が異なりますから、駐車場の優先度合いを押さえておきます。次に、日射の入り方を見極め、ライフスタイルや要望を合わせながら建物の配置計画と同時に駐車場の位置を検討する。日射取得のために南側に開口部を確保すると同時に、プライバシー性を考え、道路側から見た外観デザインも整えていきます(図)。


羽柴:僕は、工務店はサービス業だと思っているんですよ。パッシブデザインはデザインや設計というより、サービスの一つだと捉えていて、敷地に対して論理的にアプローチできるのでお客さんにも納得してもらいやすいんです。
地域を超えたコラボレーション
―― 今、お二人による住宅のプロジェクトも進んでいるとお聞きしました。
星野:地元では設計・施工まで一貫して手がけますが、設計は全国から受けています。僕の方に設計依頼のあったお客さんが東大阪市の方で、施工にタイコーアーキテクトさんを紹介させてもらいました。プレミアムパートナーは家づくりに対する理念が共通していて、デザインだけでなく、耐震性能や環境性能といった目には見えない部分にも取り組み、家づくりに真摯に向き合っている方々ばかり。全国にプレミアムパートナーがいるから、依頼があった時はすぐに相談でき、紹介できるというのは、非常に心強いですね。
羽柴:「重量木骨の家」を通して全国にパートナーがいるような感覚ですよね。これまでは家づくりの依頼先を決める時、住宅情報誌を見て、「ここが近いから」とか「気に入ったデザインは他にあるけど、工務地元の工務店だから」と決めていた人も多いはず。でも、設計と施工を切り離すことができれば、その選び方から解放される。設計は好きなデザインを選べ、施工はエビデンスと実績を持った工務店にお願いできるようになるわけです。

星野:コロナがきっかけでオンラインが定着し、いろんな地域での仕事を受けやすくなりましたね。以前は遠い場所も現地に行き、打ち合わせで一気に決めるような感じだったから、お施主さんも設計も大変でした。
羽柴:従来の一気通貫の設計・施工のスタイルはお客さんにとって安心・安全な王道路線として必要ですから、それはやりつつも、一方で設計と施工を切り離す方法も採用できたら可能性が広がる。二つの選択肢があることが重要だと思います。
星野:どちらも選べるというのがいいですね。それが可能なのも「重量木骨の家」というネットワークがあるから。こういった仕組みのネットワークは、これまでになかったと思います。

羽柴:「重量木骨の家」のネットワークは営業や販売促進のノウハウではなく、どのようにすれば良い家になるかを共有していて、会社や地域を超えた交流は刺激になります。
二人が協働する都市型住宅「FLOOR」
―― 現在、お二人は協働で都市型住宅「FLOOR」を企画しているそうですね。どのような計画なのですか?
羽柴:タイコーが普段手がけている注文住宅の敷地は、主に郊外です。郊外の敷地は立地や周辺環境がさまざまなので、設計のバリエーションが多くなり、そこに住み手のライフスタイルや家族構成、こだわりが加わると、万人に響く家にはなりづらくなります。一方、都市部は周辺環境がすでに完成しており、建物の自由度も限られる。そのなかでも眺望や採光、通風を諦めずに、開放的で快適な空間を実現できれば、万人にとって資産価値の高い家をつくることができるのではないか。これからは30年で家を建て替える時代ではなく、一つの建物を族引き継いで使っていくために、都市部での建売を企画する意味があると感じたんです。都市型の建売住宅「FLOOR」は、以前から一緒に仕事をしたいと思っていた星野さんにデザイン監修を依頼しました。





星野:設計で一番条件が厳しいのは、郊外の第一種低層住居専用地域。良好な住宅地を形成するために高さ制限や斜線制限など条件がとても厳しくて、実は設計的にはきつい。逆に都市部でも近隣商業地域は、周りにビルなどが立つので借景は望めませんが、容積率も高さもギリギリまで攻められるから、設計がしやすいんですよね。
羽柴:都市部は容積率が増えて制限も緩まるので、郊外に比べて敷地が小さくても、建築の立体的な自由度が上がりますよね。「FLOOR」は都市部の30坪程度、間口が3間以上の敷地を条件とし、エレベーターをつけ、ワンルームのLDKを最上階にもってきた「天空のリビング」がコンセプトです。


これからの時代に必要な家づくりとは?
―― これからどんなことに挑戦してみたいですか?
星野:僕は「世界基準の家」を掲げ、環境性能や省エネ性能は世界最高水準のドイツの基準をベースに設計しています。2025年4月に建築基準法が改正されたことにより、耐震検討方法が改定され、省エネ基準の適合が義務化されますが、残念ながら日本の住宅は先進国のなかで遅れています。それなのに、日本は注文住宅が最も建設されている国なんですよ。現在の住宅の価格高騰が続けば、富裕層以外は家を建てられない時代になるでしょう。

確かに完全注文住宅は難しいかもしれませんが、ある程度ディテールやプランなどを標準化しつつ、住宅としての高いクオリティを保ち、等身大の家づくりを考えて人が買えるような家はできないだろうかと。セミオーダー住宅をつくりたいと、以前から思っているんです。
羽柴:誰しもが新築を建てられるわけではない時代が来るからこそ、長期的な資産価値を含めて提案していく必要がありますよね。20年、30年経っても色あせることなく、ヴィンテージとして風格すらあるような家を目指していきたいですね。きちんとメンテナンスを行い、誇りと責任をもって長期の資産価値・将来価値のある家へと導いていくことが、工務店の役目だと思っています。

―― 最後に、これから家を建てるお客様に心構えやアドバイスなどをいただけますか?
羽柴:今後、家の性能の基準はどんどんと引き上げられ、住宅性能という観点では、一見するとそれほど差がないような時代がくると思います。しかし、設計やデザインといったセンスに由来するものは基準を設けることができないんです。だから家を建てる前に、自分なりの“ものさし”を持つことが大切なんじゃないでしょうか。自分の“ものさし”をもっている人といない人では、決断の思い切りが違うんですよ。家づくりは大きな買い物ですし、決断の連続です。流行っているからとか、金額といった理由ではなく、自分の“ものさし”をもったほうがいい。音楽や本、あるいはランチのメニューというような、日々の何気ない決断をしていくことが、非常に重要だと思います。そういった選択を積み重ねている人は、自分の価値判断基準があるから、工務店とのマッチングも失敗が少ないです。
星野:マッチングが非常に重要ですね。実は、入札で決めるようなやり方だと、あまりうまくいかないケースも多々ある。「あなたたちの会社で家を建てるのが夢でした」と言って特名で依頼してくれる人の方が、圧倒的にスムーズに進むし、僕たちも「この人たちのためにいい家をつくろう!」と思いますから。
―― 地域を超えたコラボレーションには新たな可能性を感じ、これから家を建てる人にも大きなメリットになると思いました。お二人の今後ますますのご活躍を期待しています!
本日はありがとうございました。
