interview

子育てと暮らしinterview2020.02.17

土井地 博

家族ひとりひとりが、快適でいつも心地よさを感じていたい「家」。だからこそ、家づくりへの熱い想いは誰もが持っているもの。第3回は、BEAMSコミュニケーションディレクターとして活躍する土井地博さん。東京都心の閑静な住宅街に佇む新居には、暮らしのセンスが隠されています。

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大空間にこだわった、居心地のいい新居。

斜傾地に面した、半地下のエントランス。手入れされた植栽と、4台並んだロードバイクの向こう側、シックなグレーの玄関扉を開けてくれたのは、BEAMSコミュニケーションディレクターとして活躍し、ファッショニスタたちからの羨望も熱い土井地博さん。出版物、ラジオパーソナリティやトークイベントなど、BEAMSブランドの枠を超えた活躍で、彼の語ること選ぶものにはいま注目が注がれている。そんな土井地さんが、1年半ほど前に新居を建てた。
招き入れられたそこは、東京都心の限られた土地を有効利用するため、地下部をエントランスにして生まれた土間のような広い玄関。スケルトンの階段下には中南米やアメリカなど、国内外で手に入れた雑貨や書籍、写真がバランスよく並んでいる。

「13歳になる双子の娘が、中学にあがるタイミングで新居を持てればと思って計画を進めました。住み替えの間、学校までの送り迎えを車でしていましたが、娘との時間がとても良い思い出です」
現在は、この家からそれぞれの中学校に通っている双子の姉妹。その娘たちが大人への階段を登りはじめたいまだからこそ、家づくりも大人目線で考えることができた。木材のやわらかな印象を引き締める、アイアンの手すりや石の床。きっとふたりがまだ幼い子ども時代だったら選ばない硬質でシックな佇まいの素材は、この家全体をぐっとスタイリッシュに仕上げている。
玄関扉と同じグレーの手すりの階段を登った先には、天井高3.4メートルの大空間のLDKが広がっている。通りからは気がつかないが、2階に位置するLDKには南北2面の大きな窓が設けられ、たっぷりの自然光と心地よい風を室内に届けてくれる。

「この家に住んで、カーテンがいらない暮らしができることに驚きました。通り側に設けた1枚の壁が目隠しになっているし、やや高い土地なので反対側の窓からも眺望を楽しむことができるんです。家を持つ時、朝起きてちょっと楽しくなる要素が欲しいと思っていました。朝の光が入るとか風が心地いいとか、都会の暮らしの中でも、そういうことを大事にしたいと思っていたんです」

BEAMSに約20年務める土井地さん。ファッションを取り扱う店が、暮らしそのものを提案するようになっていった背景に、2014年から彼がディレクションする書籍『BEAMS AT HOME』もあげられる。現在シリーズ6までを出版する同書は、約2000人近くいるというBEAMSに関わるスタッフの部屋や暮らし、その人ならではの表情を500ページにもわたるインパクトあるボリュームでみせている。ファッションも含む、人の暮らし方、ひいては生き方までをも見事にディレクションする土井地さんの才能は、もちろん、自邸の編集にも活かされているようだ。

「仕事中に、“木造スケルトン”っていう言葉を耳にしたんです。“何それ?”と、とても興味が沸いて。僕自身の家を考えたとき、素人目線だけれど、例えば柱は少ない方がいいとか、広い空間が欲しいとか、自分で素材を選んでみたいとか。いろいろな可能性を考えていったら、“木造スケルトン”に行き着いたんです。家づくりにおいて既成のものは、何だか嫌だなと思っていましたから。そんな中で出合ったのが『SE構法』です」

都内の限られた土地の住宅でも、自分らしさを出したい。そんな希望を実現に導いてくれたのが、SE構法での家づくりだった。木造でつくられる、まるで箱のようなひとつの大きな空間。その大きな箱の中に、キッチンや階段など必要なものを足していき、木と鉄、木と石など異素材をバランスよく使って、土井地さんは自分らしさを表現していった。広いLDKを見下ろしながらスケルトンの階段を3階へとあがれば、家族のプライベートルームが3部屋。ふたりの娘たちの部屋の壁色は、子どもたち自身が選んだブルーや、ラベンダー色だ。明るいベランダが付いて外の景色も楽しめる夫婦の寝室には、オープンラックにたくさんの洋服が美しく並んでいる。部屋を極力すっきりと見せるため、入りきらない衣服類は、収納サービスを利用しているとか。

「100点満点はいらないんです。60点で進めて、生活をしながら徐々に100点に近づけられたら。最初から決めつけることをしないほうが、家づくりって楽しいんです。例えば、いまのLDKは大空間の1ルームだけれど、小部屋を作ったりロフトを設けたりもできる構造です。いずれ子育てが終わったら、いまとは違う間取りで住める••••••そんな変化を楽しめる家ってすごく面白いですよね」

アルネ・ヤコブセンのセブンチェア、ポール・ヘニングセンのペンダントライト、アルヴァ・アアルトの円テーブルの上には、コーヒーを注いだカップが。自然と集まっていったという北欧のデザイン家具は、白壁に木の梁を出した広い空間に見事にマッチしている。そこに、家族皆が旅先で集めたという雑貨や、書籍、植物たちが加わってさらに豊かな空間を作り上げている。アイランドタイプのキッチンはリビングから一段下がっており、立てば目線も下がるため、リビングの景色もどこか開けて見える。さらにキッチン前のスツールに座れば、調理する人とちょうど良い高さになるのも夫婦で気に入っているポイントだとか。友人家族が集まったときには、このキッチンのまわりで妻たちが集まり、夫仲間はダイニングテーブルで談話。そして子どもたちはダイニングのソファでゲームをするなど、1つの空間で皆が思い思いに楽しめるという。

「この家に暮らして、冬はまったく寒くなく、夏はさほど暑くないことにビックリしました。気密性が高いからだと思いますが、冬は床暖房、夏は石床がひんやりとしていて、エアコンをあまり使わなくても生活ができるんです。外気からだけでなく、耐震についてもそうだけれど、家は家族を守るものであってほしいですから。きちんと構造計算されているというSE構法ならではの安心感もありますね」

自邸づくりで得た経験や知識は、彼にとって大きな財産となったようだ。
「工務店って、家を建築するだけでなく、暮らしを豊かにする相談相手だと思いました。生きていく上で僕らにはアドバイスをくれるような“ヒンター”が必要だから、暮らし方全般にヒントを与えてくれる工務店は、すごく大事な存在だなと思ったんです。正直言えば、もう1、2回、家を作ってみたい。それくらい、家づくりに前向きでありたいなって思うんです。人生にとっては大きなことだけど、車を買うくらいの気楽さがあってもいいんじゃないかと(笑)。少しカジュアルに考えると、楽しさが沸いてくるから」

朝、家族が集まる大空間は香しいコーヒーの香りに満たされる。大きな窓から徐々に差し込んでくる朝日に向かって、背筋を伸ばし瞑想をすることから土井地さんの1日は始まる。都会にありながら、自然の静けさを感じられるこの家は、土井地さんが大切にする家族の時間をより豊かなものにしている。彼の中に日々湧き出てくるアイデアもまた、素の自分を作り出してくれるそんな家時間の中で生まれるのかもしれない。

Profile

1977年生まれ。大阪のショップスタッフを経て、メンズPR担当として上京。PR業務を行いつつビームスが実施する各コラボレーション事業やイベントの窓口として担当。洋服だけではなく周年事業やFUJI ROCK FESTIVALをはじめとした音楽イベント、アートイベント等を手がける中心人物として長年業務を行っている。現在はビームス グループの宣伝統括ディレクターでもあり、社内外における「ビームスの何でも屋さん」というネーミングを持つ仕掛人。また自身がパーソナリティを務めるラジオ番組「BEAMS TOKYO CULTURE STORY」がInterFM897、Radio NEO、FM COCOLOの3局ネットにて放送中。大学講師、司会業など幅広く活躍。