interview

子育てと暮らしinterview2020.11.25

tupera tupera

家族の時間、そして制作の場所。ともに大切な瞬間を共有していく「家」。第10回は、絵本、工作、舞台美術、アートディレクションなど多方面で活躍をする「tupera tupera」。京都の絶景を切り取るアトリエと光溢れる自宅には、作品の延長のような、遊び心あふれる家族の暮らしがありました。

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アトリエと自宅がひとつになった、絶景を取り込む邸宅。

穏やかな流れを見せる京都、鴨川。その川は上流へ向かうほどに、古都の町並みから自然豊かな風情へと姿を変えていく。「賀茂川」と表記を変えるあたりの川のほとりでは、桜並木とともにいくつもの巨木がゆるやかにその葉を揺らす。あたたかな日差しと光輝く川面、土の川べりを走る子ども達。その風景には、どこか甘やかな空気が流れている。

「僕らを動かしたのは、賀茂川のこの景色でした」。
その空気と見事に調和する、落ち着いた風貌の一軒家。3つの家が少しずつずれて重なり合うような個性的な佇まいで、見上げると言葉通り、賀茂川の景色を大きく切り取る窓が設けられている。特等席であるアトリエには、そんな景色を目前に白いテーブルが置かれている。ハサミを片手に持つふたりが、作業マットへと交互に切り絵を並べていくと、あっという間に不思議顔の動物が生まれ、まあるい瞳でこちらをじっと見つめている。

亀山達矢さんと中川敦子さん夫妻は、「tupera tupera」として絵本やイラストレーションの制作活動をするふたり組み。伊勢市出身の亀山さんと、京都生まれで東京育ちという中川さんは、ともに東京で学生時代を過ごしている。出会った場所も、結婚後の生活も東京だ。そんなふたりが遥か離れた京都という地で、自邸を建てようと動き出すキッカケになったのは、2011年におきた東日本大震災だった。

「あの年が、自分たちのライフスタイルを考えるキッカケになったと思っています。人生どう生きていこうか、私たちはどんな暮らしがしたいか。これからの長い家族の時間を、このまま同じ場所で暮らすのはもったいないかも、と考えるようになったんです」。中川さんは、当時をそう振り返る。

ふたりが「tupera tupera」というユニットを組んで活動を開始し、イラストレーションにグッズデザイン、アートディレクションなど、世間で大きな評価を得て、活動の幅も広がっていたさなかだった。東京にいなくても制作活動ができる環境にあったふたりにとって、新しい生活拠点を探すという前向きな気持ちが生まれていった。西日本を中心に、自然の多い場所や心地よい町を探しまわった結果、運命的に出会った場所が、京都・賀茂川のほとりだったというわけだ。

構想から4年をかけて、2016年秋に、アトリエ兼自宅が完成した。
「大学時代、親友に『いつかお前の家を建ててやる』って言われたんです。そのあと、本当に建築家になった親友に設計をお願いしたいと思っていました。そして同時に、tupera tuperaを始めたときに仲良しになった建築事務所を営む2人組にも、頼みたいと思ったんです。学生時代の素の僕たちをよく知る親友と、tupera tuperaをよく知る友人たち。この人たちみんなに、タッグを組んでもらおう! と、僕らが勝手に考えたところからプロジェクトは始まりました」と、亀山さんは笑う。

全体の設計や構造は「アパートメント」の滝口聡司氏と泰将之氏。そして内装をメインに手がけたのが「ダッフル」の鈴木哲郎氏。3名の建築士が携わるという異例の進行方法は、さらに「tupera tupera」のクリエーター2名を加えて、絶妙なバランスを保ちつつ進んでいった。
「もめるんじゃないかなという不安もあったんですが、結果的には、友達5人が週に1回集まって、皆でアイデアを出し合いながら、ああでもないこうでもないって意見を言い合える、楽しい時間の連続でした」。

打ち合せのたびに、手書きスケッチを描いて持って行ったという中川さん。回を重ねるごとに、そのスケッチは詳細ラフへと変わっていき、それを実現すべく、3人のプロが力を振り絞った。次々と沸き出すアーティストふたりのアイデアを、実際にカタチにしていく綿密な作業だ。

そんな中で立ちはだかったのは、京都という場所がもつ独特な“建築規制”だった。賀茂川の美しい景観を維持するため、風致地区であったこの土地に設けられた規制は、建物の外壁や形状などを細かく指定するものだったという。日本瓦か銅の屋根でなくてはならない、外壁は白なら漆喰でなければならない、サッシの色は……などなど、純和風建築をベースに設けられた規制に、当初は面食らったふたりだが、建築家たちが極限の可能性を探ってくれたことで、規制すら味方に付けることができた。
「その建築規制のなかで、僕ら夫婦としては、それなら中身でめいっぱい遊ぼう、と考えた訳です」。

玄関を入ると、2階のアトリエへと続く階段と、1階リビングにつながる回廊とに分かれている。川に面したアトリエには、川面の景色を見ながら作業ができるよう、大きな窓が設けられている。アトリエの巨大な本棚の隙間には小さな隠し階段があり、登ると人工芝が敷き詰められたプレイスペースが広がっている。この「tupera tupera」らしい“小さな遊び”こそ、彼らの絵本を開く時と同じワクワク感に満ちている。

2階のオフィスや倉庫の奥は、中学1年生と小学2年生のふたりの子ども部屋だ。住居スペース側には、階下へとつながるもうひとつの階段がある。1階は、キッチン、ダイニング、リビングが、床の段差と天井高の違いが設けられたひとつの空間でつながっている。川沿いには客間として小上がりの和室が設えられており、壁に収納された建具には、亀山さんと中川さんがふたりで付き板を切り貼りして作ったという壁画が収められている。

「ズドンと抜けた家がいいと思いました。生活空間である1階は、扉を取り外せるようにして、開けることも仕切ることもできるようにしました」。ダイニングの白いタイルは、そのままテラスへとつながっていて、内と外がつながった大空間を演出している。一段下がるリビングエリアに、小上がりの和室。いくつもの段差が、抜けた空間に表情と奥行きを持たせている。

「川が目の前なので自然災害も意識しながら、建築家たちと相談をして、地盤や構造のことも話し合いました。京都の気候なども配慮して木造建築にし、その中で、なるべく柱を少なくして広がりのある空間をだしてもらったんです」。アトリエも居住空間も、小さな遊びを取り入れながら、色やカタチのベースはシンプルが基本。つぎつぎとモノを作り出していくふたりだから、あえて抑えめに、住み易さとゆったり感を意識したのだという。
「家が完成したとき、建築家の友人にこの家にいちばんに泊まってもらいました。彼らとはものすごくいい距離感で、家づくりが進行していったんです。さらに絆が深まった気がしていますよ」と、亀山さん。

惚れ込んだ景色に、寄り添うように建つ自宅。4年という月日が流れ、その空間は徐々に、家族の思い出の色に染められている。「tupera tupera」の作品、家族が描いた絵画、そして子ども達が作る巨大な張子のオブジェがセンスよく飾られている。
「子ども達の作り出すものは、僕らが作るものよりはるかにいい。子どもの描いた石の絵の前に本物の石を置いたり、絵画教室で作ってきたどデカイい壷や鉛筆を、どーんと飾ったりすると、ものすごくかっこいいんです」。

家族が最も密接な時間を過ごしたというステイホーム期間中は、さらに家の中が賑やかに、そして豊かになっていったという。子ども達とウクレレを弾いたり、仕舞い込んでいた将棋を教えたり。限られた“不思議時間”を楽しむ中で、この家こそ、最も自分たちが好きな環境だったということを、改めて実感した。仕事をする場所と生活をする場所がつながっていて、そのどちらをも愛せるということ。そんな心地よさの中で、子ども達を夢中にさせ、大人をくすっと笑わせる名作が生み出されている。
「あのとき、色んなことに追われる毎日がふっと消えさった瞬間でもありました。何かを作ること、考えることが僕たちの仕事。世界の動きが止まっても、考えたり作ったりすることは止められないから」。

夕刻、亀山さんが、待ってましたと言わんばかりに、窓から差し込んでくる金色の西日に目を細める。川面をきらきらと輝かせ、木々の隙間からアトリエへとまっすぐに届くこの光が、「tupera tupera」の終業の合図。アトリエをまっさらな状態へときれいに片付けたふたりは、階下の子ども達の元へと、駆け下りていく。

Profile

tupera tupera(ツペラ ツペラ)は、亀山達矢と中川敦子によるユニット。絵本やイラストレーションをはじめ、工作、ワークショップ、アートディレクションなど、さまざまな分野で幅広く活動している。
著書に『かおノート』(コクヨ刊)、『やさいさん』(学研教育出版刊)、『うんこしりとり』(白泉社刊)など多数。海外でも多くの国で翻訳出版されている。NHK Eテレの工作番組『ノージーのひらめき工房』のアートディレクションも担当。絵本『しろくまのパンツ』(ブロンズ新社)で第18回日本絵本賞読者賞、Prix Du Livre Jeunesse Marseille 2014 (マルセイユ 子どもの本大賞 2014 )グランプリ、『パンダ銭湯』(絵本館)で第3回街の本屋が選んだ絵本大賞グランプリ、『わくせいキャベジ動物図鑑』(アリス館)で第23回日本絵本賞大賞を受賞。2019年に第1回やなせたかし文化賞大賞を受賞。2020年6月、東京立川にオープンした美術館『PLAY!』にて、『tupera tuperaのかおてん.』が開催中。会期は12月29日まで。