interview

子育てと暮らしinterview2021.03.30

吉田怜香

ファッションを選ぶように、自らの好きを投影する「家」づくり。第13回は、ブランドディレクターの吉田怜香さん。木を感じるフラットな空間に、リノベーションを加えて作り出した、スタイリッシュな暮らしの中へ。

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審美眼が作り出す、絶妙なトータルバランスの部屋。

サンド、ベージュ、アイボリーそしてウッド。絶妙なナチュラルカラーが、サンルームから入り込む日差しを受けてリビングを一層明るく見せている。その色合わせは、彼女の透き通る素肌に施されたごく自然なメイクアップのように、どこまでもナチュラル。リネンのシャツと、洗いざらしのコットンパンツ、アクセントに添えたゴールドのピアスまでもが不思議と調和している。
ブランド「TODAYFUL」、ライフスタイルショプ「LIFE’s」のディレクターとして活躍する吉田怜香さん。自らのファッションを選ぶように、生活空間もベーシックを基調としてコーディネートされている。ブランド立ち上げから8年目。その審美眼はファッションの世界に留まらず、スタイルブックやSNSで発信される世界感に、ファンも多い。

そんな彼女が現在暮らすのは、引っ越してまだ1年もたたないという都心のマンション。結婚、そして出産を機に、子育てのできる広い部屋を探していたとき、マンションオーナーが暮らしていたという、この広い物件と運命的に出合ったのだ。庭付きで132平米という広さは、まるで平屋のようなゆったりとした空間だ。
「正直、ここまで広い家を探していたわけではなかったんです。オフィスからもアクセスのいいヴィンテージマンションを探していて、偶然に見つけたのがこの場所でした」。

重厚な木の扉に飾り天井、作り付けの食器棚の引き出しには真鍮の取っ手が付いている。ミッドセンチュリー風のその空間は、細部にまでこだわって作られたものであることが手に取るように分かる。そんな古き良き内装を生かしつつも、吉田さんは自らリノベーションを施している。広いエントランスから伸びる廊下部分は、大理石の壁に合わせて床全面に石タイルを敷き洗練された印象に。ベッドルームは白の石タイル。対してリビングは、オリジナルを生かした木床で、温かみのある空間に。さらに、リビングの壁と床をつなぐ巾木にもテープを張って、白に変えるというこだわりよう。好きになった家を、もっともっと自分色に変えていく彼女のアイデアや技は、インテリア好きの域を超えている。

「柄のフローリングなど気に入ってもいるのですが、全体を引いて見たときに、思いのほかウッドの面積が多かったんです。茶色の部分を少し隠すことで、モダンな空間に変わりました。でも賃貸物件なので、すべて現状復帰できるように工夫をしています」。リビングの窓は、サッシの雰囲気がどうしても好きになれず、自身のショップの内装を手がけるチームと共同でガラスブロックの窓を作成。あとできちんと取り外しが利くようにはめ込んでいる。

シンプルさとヴィンテージ感を大事にしたというこだわりの空間は、インテリアもバランスよく配されている。ヴィンテージのソファに、ガラスのペンダントライト、壁には古道具店で格安で見つけたという古木を使ったアフリカのオブジェが印象的だ。ダイニングには、ミッドセンチュリーを代表するエーロ・サーリネンのチューリップチェアのテーブルセットと、ジョージ・ネルソンのバブルランプが見事にマッチしている。まるでファッションを選ぶように、ハイ&ローも、ブランドミックスもお手のもの。柱のない大空間は、そんな彼女の美的センスに満ちている。

「古いものとモダンのミックスだけじゃなくて、所々に和を感じさせるのが好きなんです。作り付けの食器棚はぜんぶガラスを外して、あえて中を見せるようにしていますが、そこには旅先で出合った和食器を並べています。使いやすさだけでなく、ディスプレイみたいに素敵に見せられるんですよ」。棚の中に美しく並ぶ食器やワイングラスの数々は、吉田さん自身が使いながらその良さを実感し、いずれセレクトショップの店頭にも並ぶのだという。

かつて、神戸で読者モデルをしながら販売員として働いていた時、雑誌主催のブランドプロデューサーのオーディションで見事グランプリを獲得した彼女。洋服好きの女の子に開かれた新しい未来は、自身の隠れた努力と持ち前のカリスマ性をもって、彼女を時代のスタイルリーダーへと押し上げていった。
「自分がブランドを持つなんて、当時は想像もし得なかった。ただ目の前に新しい可能性が開かれたとき、あ、そういう未来もあるんだなって、そのとき初めて意識したんです。何もわからないままアパレルの世界に入っていきましたが、当時からずっと、“好き”が続いている状態です」。
そんな彼女は、初めて東京でひとり暮らしをするようになり、自分だけの空間を持ったことが、インテリアのスタートラインかもしれないと語る。ファッションへの興味は、次第にライフスタイル全体への興味へと広がり、いまでは店舗にもファッションとライフスタイル用品が半分ずつ並んでいる。
「いまはファッションよりも、インテリアの本を見たり、インテリアショップを覗いている時間のほうが多いかもしれない」。

ベッドルームから赤ちゃんの泣き声が聞こえて、愛犬の2匹のチワワも、そわそわと動き出す。そう、吉田さんには7ヶ月になる赤ちゃんがいる。産休、育休はほぼなしで、ここまで夫と二人三脚でやってきた。自身のビジネスを休むことなく、働くママとして懸命に、でもスタイリッシュに生きる姿は、もうひとつの彼女の顔になりつつある。

「とにかく初めてのことだから、産んでみてから決めよう、という感じだったんです(笑)。夫の助けがあったおかげで、赤ちゃんがいても、仕事を続けることができたのは幸せでしたね。どこかで、仕事の時間が自分にとって息抜きの時間にもなって。仕事と育児、ふたつの時間を持つことが、それぞれにとっていい影響をくれているという実感があります」。
ぷっくりとした笑顔でママの膝に小さな手を置き、つかまり立ちをしようとする、ひばりちゃん。いまは何にでも興味を持って目が離せない時期だからこそ、子どもの安全についてもよく考えるようになったという。神戸の尼崎市出身の吉田さんは、阪神淡路大震災のとき小学校1年生だった。暮らしていたマンションは、家具がたくさん倒れてぐちゃぐちゃになってしまったし、通っていた小学校は崩壊し、別の小学校へと越境通学を強いられたという経験をもつ。

「地震の怖さを知っているから、やっぱりどこかで意識はしています。この家は、家具のほとんどが作り付けだから、まず倒れる心配がないな、とか。棚のガラスも全部外してしまっているのは、見た目優先だったけれど、結果的に地震対策にもなっていると気がつきました。この家から、いつか娘が安全に小学校に通えたら良いなって思いますね」

冬の肌寒い時期、家族みんなが自然と集まる場所がある。そこは、太陽が注ぎ込む窓辺のサンルーム。やさしい暖かさだけではなく、引っ越して最初の1年を過ごす中、このサンルームから眺める小さな庭は、四季ごとに嬉しい発見と喜びをくれているという。
「梅、あじさい、それからハイビスカス。次はこれだよ、という風に、次々と新しい花を咲かせて私たち家族を楽しませてくれるんです。前に住んでいた大家さんが大事に植えた植物が、ちゃんと根付いているんですね。私は子ども時代からずっとマンション暮らしだったので、家に庭があるのはとても新鮮です」。

ピンク色に膨らんだ梅の花、それを追いかけるように桜の蕾も色づきはじめている。この家がくれた贈り物は、庭を彩るたくさんの花々と、穏やかな家族の時間。そして何より、ライフスタイルに携わるモノ作りがやっぱり好きだと確信できたこと。それを仕事にしたいと思えたのも、この暮らしがあったからかもしれないと吉田さんは言う。プロデューサー吉田怜香の次なる夢が、この家からスタートしつつある。

photo 上村可織 text 須賀美季

Profile

1987年、兵庫県生まれ。神戸のセレクトショップで販売員をしながら、ファッション誌の読者モデルとして注目を集める。ファッションプロデューサーを発掘する雑誌主催のコンテストでグランプリを獲得し、ファッションブランド「Ungrid」のプロデューサーに。2013年オリジナルブランド「TODAYFUL」を立ち上げる。後に東京・代官山に「TODAYFUL」を取り扱うライフスタイルショップ「Life’s」をオープンさせた。これまでに、自身のスタイルブックを5冊刊行し、ファッションのみならず洗練されたライフスタイルには多くの女性に支持されている。近著に『32』(扶桑社刊)がある。