Vol.5

スマートな家づくり 理想の家は依頼先選びからはじまる

@大阪府堺市 Sさん邸

「性能」という確かな土台に築いた住まい

デザイン力のある工務店が並走し、かなえた和モダンの家

大阪府堺市のS邸は、旅館のような安らぎに包まれた和の住まい。リビングの先には、四季の彩りを映す日本庭園が広がります。
理想的な間取りやデザインをかなえたのは、「確かな性能」という揺るぎない土台があったから。
つむぐ家と二人三脚で実現した、Sさんご一家のスマートな家づくりの歩みをたどります。

Text:間庭典子/Photo:伊藤 信

性能のいい家とはどのような家か?

ご夫婦ともに学校の先生というSさん一家。中学生の娘さんも、小学生の息子さんも、それぞれ学ぶことを楽しみながら日々を過ごしています。
「前に住んでいたのは、もともとの猫背がさらにきゅっとまるまるような、狭くて寒い家だったんです」と奥さまは振り返ります。夏は灼熱で、巡る季節と闘わなくてはならない家だったそう。
「どんな気候でも心地よい家、性能のよい家とはどんな家なのか、YouTubeなどで情報を集め、気密性や断熱性について調べました」とご主人。
情報を集めるうちに、快適な家は、構造やパッシブデザイン、断熱計画で実現することがわかり、地域の工務店をあたってみることに。その過程で出会ったのが「つむぐ家」でした。「見学会で社長の説明を聞いたとき、分かりやすさと誠実さに惹かれ、ここなら理想を形にできると確信しました」とご主人は語ります。
つむぐ家が想像以上に、気密性や断熱性、耐震性にこだわっていることが伝わってきたので、そこではじめてデザインについて考える余裕がうまれたそう。「私たちは性能のよい家なら、デザインは何でもいいとさえ考えていたんです」と奥さま。ところが打ち合わせでヒアリングを重ねるうちに、こんなリビングで過ごしたい、こんなデザインが好きだという思いがどんどん引き出され、日本庭園のある、旅館のようにほっと和める住まいを目指すことになりました。

日差しや外からの視線を遮断する格子がアクセントに。外壁はドイツ製の外断熱システム アルセコを採用

予想をはるかに上回る提案に心が躍りました

アプローチから和の趣が漂い、日本旅館を感じさせます。格子や季節の草花の植栽が和のデザインを引き立てています。玄関はゲストを迎える表の動線と、シューズやアウターなどを収納し、趣味のギアを収められる裏の動線を設けました。土間の床は、砂利が浮き上がる洗い出し仕上げにし、和のあしらいを採用しています。玄関の床の間風飾り棚や壁のニッチなど、目を楽しませるギャラリーを各所に設けました。そのまま廊下を進むと、のれんの奥には浴室が。洗面や脱衣所の床は藤むしろにし、温泉旅館のような雰囲気に。

玄関の扉を開けると手前が飾り棚を造作した表の動線、のれんの奥には自転車や小物などを収納する裏の動線に

そして、圧巻なのは庭に面したLDKです。
延焼ラインなどの制限がある中、調整を重ね、かつ構造の耐力位置などを踏まえて
可能な限りの大開口を確保しました。2階の寝室やスキップフロアのアトリエからも庭園は愛でられます。庭の中で過ごせる縁側を広めにとり、アウトドアリビングに。リビングに面した和室と同じく、障子で光を調節。まるで旅館のような和モダンなスタイルにまとまりました。

リビングの障子を開けると庭の緑が目に飛び込み、上階の窓からも自然の気配を感じられる。

これらはすべてピンタレストからピックアップした画像をサンプルに、こんな感じがいい、こんな機能が欲しいと伝えたのだとか。「打ち合わせの度に、それらの要望をはるかに上回るアイデアを出してくれて、感動しました」とご主人も満足そう。夜、光が当たると庭園はさらにアーティスティックなムードになります。「ぼーっと庭を眺めるのが就寝前のルーティンになりました。逆に余裕のない時は庭を見てないと気づき、今の状況を測るバロメーターになっています」。
科学の研究が大好きな息子さんは、庭でカブトムシを観察・飼育しながら、その成長や生態を記録するのが日課。庭は、そんな探究心を育む大切な場所になっています。

多様な樹木が重なり合う庭園が主役

光が差し、ゆらぐ影が美しい緑陰

造園は自然植栽専門店「Aonosumika」の兼本直明さんに依頼。自然に寄り添った剪定により、自然な森に近い景観となりました。緑陰を感じる木立、葉がこすれる風の音、木の香りなど、五感で四季を感じられます。数々の寺院の庭園を手掛けた兼本さんならではのバランス感覚で、生活になじむ、本格的な日本庭園となりました。「唯一の誤算は、兼本さんの植栽の提案が素敵だったため、開口部を通常の掃き出し窓ではなく、全開できるスライドサッシにしたくなったことです」とご主人。視界を遮る引き違いのサッシに抵抗を覚え、防災上の規制や申請を出すタイミングを考えると無茶なお願いであることも理解しつつ希望を伝えました。嫌な顔も見せず、受け入れてくれ、カーテンやブラインドではなく、障子の建具を造作もすることに。そこからはつむぐ家の真骨頂。「障子をすべて袖壁に引き込み、開いた時も閉じたときも見えないよう、ち密に計算しました」とつむぐ家の一級建築士、松尾知佳さんは当時の苦労を振り返ります。デザイン力、確かなる施工技術を誇る工務店だからこそできる仕上げです。植栽の影が障子に落ちたときのシルエットも抒情的。「後悔するのが嫌だったんです。松尾さんは期待以上の大開口を実現してくれました」

庭に面した大開口。開けたときも、閉じたときも障子の召し合せ部分が目立たぬように計算している。

「庭の面積を確保するために、アイランド型キッチンではなく、壁面を生かしたL字型のキッチンを選択。結果、キッチンをコンパクトにまとめ、ゆったりとしたリビング空間となりました。さらにはあえてソファを置かず、床座にしたことで視覚的にも広々と。競技かるた部で活躍する娘さんのトレーニング用に畳を敷いています。コンパクトにまとめたLDKでも閉塞感を感じないのは柱や壁に遮断されず、2階へとつながる天井高約5mの吹き抜けがあるから。これはSE構法だからこそ実現できた大空間です。この吹き抜けを介して2階からも庭園を愛でることができます。

リビング、ダイニング、キッチンに仕切りがない開放的なLDK。奥の障子を開くと和室と一体化し、さらに広く感じる。

家族4人それぞれの居場所

庭を優先し、LDKをコンパクトにまとめたことで生まれたゆとりの空間。その分、多趣味なSさん一家らしい、心地よい居場所を家のあちこちに設けることができました。
階段上のスキップフロアは手芸が趣味の奥さまのアトリエに。造作したカウンターにミシンを置き、庭を眺めながら作業できます。奥は書棚を設け、ライブラリーとしても機能し、お子さんたちが音楽を奏でる空間でもあります。玄関や床の間は、華道を習う娘さんの作品を飾るギャラリーに。取材当日も見事な作品でダイニングテーブルを飾ってくれました。

2階のスキップフロアに設けた手芸や音楽を楽しむアトリエ。家族それぞれが趣味を楽しむ空間があるのもS邸の魅力

玄関裏の壁にはロードバイクや息子さんのソフトボール用品などを掛けて収納。隣接するプライベートジムでは筋トレに励み、ご主人のスペースは趣味も運動も満喫できる充実ぶりです。 出会った工務店が、自分たちでさえ気づかなかった理想を引き出し、造園家や職人とともに物語をつむいでくれました。知的好奇心をもって、各専門家を信頼して、知識を吸収することで、家づくりはもっと楽しくなる――そんなことを教えてくれる成功例です。

トレーニングルーム。本格的なマシンの重量に耐えられるよう床を強化している。
キッチンは壁に沿ったL字型に配置。コンパクトな空間でもみんなそろって作業でき、LDKは家族が自然に集まる場に。

S邸 データ

家族構成
夫婦、子ども2人
敷地面積
155.07㎡
延床面積
129.13㎡
階数
2階建て
設計、施工
つむぐ家