2017.06.13

開放感をもたらすスキップフロアの家

開放感をもたらすスキップフロアの家

空につながる幅1.7mの階段が大空間への期待を高める

玄関に足を踏み入れすぐ目に入るのは2階のLDKにつながる幅1.7mの広い階段。「家の規模に比べ、この幅の階段は無駄なスペースかもしれませんが、空に広がるこの開放感は格別です」とHさん。今でも帰宅するたびにはっとするそう。十分な広さがあるため、奥さまがまだ0歳の息子さんを抱きながらでもストレスなく荷物を運べ、安全だ。また育ち盛りの3歳の長男にとっても楽しいスペース。無垢材に包まれた玄関ホール全体にやわらかい光が降り注ぐ。
「広い階段がご希望と聞き、思い切ったレイアウトにしました。一般的な間取りが住み手にとって快適とは限りません。予想を裏切る広い階段の存在感が、見た人に驚きと期待を高めてくれます」と語るのは、設計を担当した北爪俊之さん。“常識を超える発想”は大歓迎―その家族ならではの快適な比率をプランニングし、唯一無二の独創的な家を提案するのが関工務所の信条。120年続く実績があり、社員の半数が大工職人という技術力が大胆なプランを可能にしている。

スキップフロアを生かした空へとつながるLDK

階段を上ると天井高4.7mの吹き抜けが広がり、ワンフロアでつながった大空間にたどり着く。家の南側は開けた敷地になっているため、リビングは2階の南向きに配置し、全面開口にした。キッチンは全長4.2mのロングキッチンを選び、ダイニングとしても使用。そこから3段ほど上がったスキップフロアには本格的な薪ストーブを配したリビングがある。さらにその奥には、小上がりの和室を設けた。立つ位置により視点が次々と変化し、シーンが移り変わる。
「段差の多い家なので小さな子にとってはやさしくないかもしれませんが、暮らしていて楽しい、立体的な空間にしたかったんです」とHさん。広々としたLDKは子供たちの格好の遊び場となり、お友達とともに駆け回っているのだそう。段差があることでダイニングキッチンとリビング、書斎や和室、それぞれのゾーニングを可能にした。この段差により奥の子供室へ続く廊下からはキッチンを見下ろせ、高さの違う視点でゆるやかに家族がつながる。

軽井沢の別荘を参考にし見た目も体感も快適に

「自宅にいても別荘に滞在しているような感覚の家が理想でした」とHさん。不動産関連の会社にお勤めのHさんは軽井沢を中心に別荘の売買に携わっている。さまざまな別荘を扱ううちに、いつか森の別荘のような家に住みたいと願うようになったという。LDKの床はナラ材、天井は群馬産の杉板で仕上げた。本漆喰の白い壁や無垢材をベースとし、天然石がアクセントになっている。当初、キッチンの壁はタイルにする予定だったが、温もりを感じる栃木県産の大谷石を選択。開口部は木で枠を組んだ造作建具で揃え、サッシの金属素材をカバーした。傾斜屋根やあえて構造部分を見せた梁、重厚な薪ストーブの存在感もあり、山荘のようなデザインに仕上がった。
「仕事で中古物件の事例をお聞きすることが多く、長く快適に過ごすためには、どのような機能が必要かを学びました」とHさんは語る。長く住み継がれる別荘は冬でも快適に過ごせる機能を誇っており、厳しい寒さの中でもエネルギー効率よく快適に過ごせる設計、さまざまなコーナーで過ごせる大空間など、家づくりのヒントがたくさんあった。「薪ストーブや床暖房による暖かな空気は、上昇して天井付近にたまります。シーリングファンで空気を還流させることで部屋全体の温度が均等に保たれます。また、各所に重力換気を目的とした小窓を配することで風の通り道ができ、夏や梅雨の時期にも快適です」と設計の北爪さん。高窓から光が入り、昼はライトをつける必要がないほど明るく過ごせるという。木の温もりに包まれた大空間は、心地よく家族にやさしい。太陽や風など、自然のエネルギーを味方にすることで、1年中快適に過ごすことができる。

取材・文 間庭 典子

H邸

設計 北爪俊之(関工務所) 施工 関工務所
所在地 群馬県佐波郡 家族構成 夫婦+子供2人
延床面積 152.861㎡ 構造・構法 SE構法

この家を建てた工務店

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