2019.05.07

非日常な週末へと誘う崖の上に浮かんだヴィラ

非日常を過ごすヴィラへと続く天空の架け橋

空中に家が浮かんで見える実験的なプランに挑戦

崖の上に浮かぶように立つO邸はインテリアデザイナー、Oさんが「Villa i.1030」と名付けた別荘。長く暮らしてきたアメリカから日本に拠点を移したころに建設した。
「NYではごく普通の人でも、ロングアイランドなどの郊外にサマーハウスを持ち、週末をそこで過ごします。そんな自由な時間を過ごす家がイメージです」とOさん。クラシックカーで峠をドライブする、釣りに行く、窓の外の風景を見ながらぼんやりとまどろむ。ときには東京の家族と離れて、伊豆の自然に溶け込む山荘で、一人ぜいたくな休日を過ごす。海外で生活しているお子さんが、一時帰国中に滞在することもあるという。
SE構法ならではの宙に浮遊するようなプランは革新的だった。「SE構法を開発した播繁(ばんしげる)さんと面識があり、とにかく自由度が高い構法だと教えてもらいました」とOさんは語る。熱海や伊東の別荘建築を多く手がけていた梅原建設にとっても、当時SE構法の施工は初めて。「他の工務店と競合した結果、弊社を選んでいただき、O邸は弊社のSE構法による第1棟目となりました」と梅原建設の梅原智之専務。「実験的な試みにもひるまず、興味を持って取り組む梅原建設の姿勢に共感しました」とOさんは当時を振り返る。
 

リスクと戦いながらかなえた絶景の中に佇むヴィラ

傾斜のある立地の特性を生かし、見事な眺望の大開口を実現した。宙に浮かぶような家へと続く架け橋を進み、扉を開けるとLDKが広がる。キッチンはシンプルなカウンターバーにし、その分、リビングやダイニングにスペースをとった。また、樹木は極力切らず、その配置を利用。南側の2本の木が浴室の目隠しに。バルコニーから手が届く位置に枝があり、夏には心地よく木漏れ日が入る。
1階は浴室と書斎のみ。「週末だけの家なので部屋数を絞り、今後、必要に応じて増築していく予定です」とOさん。定住することも視野に入れられる自由度の高さも、SE構法のメリットだ。また、床下はあえて構造部分をそのままむき出しにして、視覚的な演出も狙った。「実はここまで大胆に見せることは奨励していません。前例がないので保証できず、こまめなメンテナンスを条件にお受けしました」と梅原さん。しかし定期的な調査でもダメージはあまり見られず、塗装による補修程度ですんでいるという。「キツツキがいたずらして穴を開ける被害にはあいましたが」とOさんが笑うほど、家が環境に溶け込んでいる。
 

心引かれるもので構成したミックススタイルの空間

インテリアデザインはもちろんOさんが監修。外壁に使われることの多い、栃木県産の大谷石などを大胆に床材として用いた。それ以外にも杉板、珪藻土、伊豆石など天然の素材を選び、極力、既製品に頼らない仕様とした。「この家には心地よいと感じる素材やデザインを集めただけ。でも、長い海外生活の影響で和を感じる要素を求めていたのかもしれませんね」 と笑いつつ、分析する。天童木工やジョージ・ナカシマの木の椅子、イサ
ム・ノグチの和紙の照明、そして李朝の棚や骨董の火鉢などが見事に調和し、素材のぬくもりが感じられる落ち着いた空間に仕上げられた。
実は、このO邸「Villa i.1030」が建てられたのは10年ほど前。インテリアのプロフェッショナルと、立地の生かし方を知る工務店との共同作品は、10年経った今も斬新な魅力を放っている。
 

取材・文/間庭典子

O邸

総合施工 梅原建設 所在地 静岡県伊東市
家族構成 夫婦+子供2人(別荘として主に施主夫妻が使用) 延床面積 106.81㎡
構法 木造SE構法

この家を建てた工務店

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