2024.04.08

LDKをさらに開放的にする大開口とキャンティレバー

暮らしを愉快に、快適にするからくり屋敷のような仕掛け

S邸はサプライズや遊び心のある仕掛けで楽しませる、いわば現代のからくり屋敷のような住まい。「ちょっと変わった、おもしろい家にしたかったんです」と住み手のSさんは語る。
まず驚かされるのは、その外観。まるで幹から枝が生えているかのように家の片側が浮いているような大胆なフォルムだ。「下の階より2階が伸びているオーバーハングはキャンティレバーと同様、木造でも構造計算によって強度が数値化できるSE構法だからこそ実現します」とkotoriの設計担当、藤丸慶吾さんは語る。S邸のファサードは、玄関前のアプローチに対してルーフバルコニーを張り出させたことで住まいの2階が最大限に活用でき、日当たりがよく、のびのびとしたLDKが実現した。
 
 
階段を上ると、ほぼフロアの全体を占めるそのLDKに迎えられる。キッチン、ダイニング側から見ると、キャンティレバー部分はそれほど目立たず、スクエアなすっきりとした空間。ところがリビングへと進むにつれ、空間は次第に広がっていき、正面の大開口と同じくらい大きな南側の窓が視界に入ってくる。ここは明るく、外の風景と一体化していてとても居心地がよい。せり出したキャンティレバーの部分にはカウンターデスクを設け、玩具や日用品を収納する棚を造作した。大きな出窓のなかに小部屋を収めたようなつくりだ。ここでは子供たちが宿題をしたり、収納部分にベンチのように腰掛け読書をしたりして過ごしている。「隣接している実家の敷地にある大きな木を眺められるよう、窓側に面したスタディコーナーにしたんです」とSさんもうれしそう。家族を見守ってきたシンボルツリーを住まいの借景として取り込んだ設計者の配慮が、このプランに表れている。 
 
 
公道側に向いた大開口の先にはアウトドアリビングにもなるルーフバルコニーを設けた。この内外があいまいな中間領域のおかげで、外部からの視線を遮ることができる。さらにこの部分は夏は日差しをカットし、冬は太陽の光と熱を効率よく取り込めるため、パッシブデザインの側面でも有効な場所になっている。
大開口を背にして見返した正面には、収納を兼ねたロフトがある。しかし一見すると、このロフトに行く階段はどこにも見当たらない。実は浴室へとつながる廊下の天井にはしごが格納され、必要に応じて出し入れするという仕組み。そのため階段のスペースが不要となり、限られた空間を有効に使えることになった。ロフト階にはデスクを造作し、Sさんの秘密基地=書斎として活用できるようになっている。ここで趣味の時間を過ごし、作業に没頭しながらも、階下の家族の気配も感じられる。互いが緩やかにつながる空間構成も心地よさの一端を担っている。
 
 
浴室脇のランドリーシューターもユニーク。脱いだ服は2階で洗濯、乾燥し、シューターに投げ入れると1階の家事室へ送られる。これによってアイロンがけ、そしてW.I.C.への収納が家事室内で完結。ここでもワクワク感が生まれ、加えて効率のよい家事動線も実現するという一石二鳥の効果がもたらされた。
「車の通行量が多い前面道路なので、LDKのスペースをできるだけゆったりと取りつつも、居住スペースのプライバシーを確保することが最大の課題でした」と藤丸さんは振り返る。
 
 
SE構法を最大限に活用したプランによってこの家にもたらされたさまざまな仕掛け。それが住み手の日常を快適にし、訪れたゲストも思わず笑顔になる、とても愉快な空間も実現している。
 
 
取材・文/間庭典子

S邸
設計施工 kotori 所在地 愛知県豊橋市
家族構成 夫婦+子供2人 敷地面積 140.06㎡
延床面積 97.87㎡ 構法 木造SE構法

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