2024.04.22

海を望むモロッカンスタイルのヴィラ

伊東の絶景を際立たせる迫力の大開口と柔らかな空間

静岡県伊東市の高台に立つN邸は、週末にくつろぐためのヴィラ。もともとNさんの先代がこの眺望に惚れこみ、別荘が立っていた場所で、青い海と空が広がり、南側には輝く山々、眼下には伊東市の街並みが見渡せる。「この地域を象徴する太平洋と大室山を一望にできる邸宅は、高級別荘地の伊東でも珍しい最高のロケーションです。LDKと主寝室などメインの部屋は外部空間を取り入れるため、規格外の大開口を実現させました」と梅原建設の設計担当の池上一敏さん。週末の家だからこそ、日常から解放される圧倒的な空間が必要だった。新築したこのヴィラでは、さらに眺望を満喫できるようプランニングした。
 
 
難関だったのは崖地対策。N邸では1階の高さを調整して、眺望を確保した。モロッコタイルと回廊風アールが印象的なエントランスから扉を開くと目前に水平線が見えて、1階の寝室やテラスからも絶景が見渡せる。また以前の1階部分をゲスト用のパーキングとして半地下にすることで空間を有効利用した。敷地を最大限に活用し、大開口を確保しつつ、耐震等級3を得たことも特筆すべき点。東と南の壁はほぼ窓という大胆さだが、構造計算で数値化し、SE構法を採用し、木造でもこの規模の設計が可能に。柱などに視界を邪魔されず、テラスやルーフバルコニーをワンフロアでつなげることで、室内にも外部空間を取り込んでいる。
 
 
絶景を際立たせるために内装は過度な装飾を控え、至極シンプルに。家具もオフホワイトやナチュラルな素材を選び、海や空の青や山々の色彩が映えるように計算した。奥さまが自ら取り寄せたという寝室の欄間のようなボード、食器やランプなど、モロッカンスタイルの調度品もあでやか。柔らかなトーンの空間に存在感を放っている。「昔の住まいの建具や掛け軸、かつての工場で使っていた看板などもスタイルにこだわらず、並べているんですよ」と奥さま。和の装飾も絶妙に混在し、和とモロッカンの折衷となっている。こんなミックススタイルが可能なのも、卓越したセンスと、プレーンな大空間があるからこそ。まっさらなキャンバスに自由に描くような楽しさがある。
 
 
また、世界中で珍しい植物を観察することがライフワークの奥さま。白い外壁はご自身が造園した庭の植栽の背景としても最適だ。さらにこの住まいは世界を旅し、各地の文化を柔軟に吸収するNさん夫妻が旅先で得たアイデアを基にした大規模な「模様替え」を想定。将来のライフスタイルの変化にも柔軟に対応し得る住まいになっている。
 
 
「テレワークを継続し、都心とリゾート地との2拠点生活を選ぶ方が増えました。また、貸別荘としての利用、将来資産として運用することを想定して、資産価値の高いプレミアムな品質の別荘建築が望まれていると実感します」と語る池上さん。コロナ禍以降、個人別荘の在り方が変化してきたと分析し、工務店側も機能性とさまざまなスタイルに調和する普遍的なデザインの両立など、資産としても評価されるクオリティを追求。今回のN邸もそんな工務店と住み手とのコラボレーションによって実現した。
 
 
取材・文/間庭典子

N邸
設計施工 梅原建設 所在地 静岡県伊東市
家族構成 夫婦+子供2人 敷地面積 333.50㎡
延床面積 208.94㎡ 構法 木造SE構法

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