2018.11.29

壁を味方にして、光を楽しむ邸宅

壁を味方にして、光を楽しむ邸宅

壁で外部からの視線を遮りルーフバルコニーで開放感を出す

S邸を訪れ、いちばん驚くのはその明るさだろう。どの部屋にいても、常に陽光を感じることができる。設計を担当したのはIDA一級建築士事務所の髙木 法さん。「都心の住宅地で敷地南側は幹線道路」という条件を受け、プライバシーを守るためにLDKなど生活の場は2階に配し、幹線道路に面した側は高い外壁を立てて外界から遮断するプランを考案した。さらに、南北に細長い敷地の各所にテラスや中庭、バルコニーを配置。これによって室内と屋外が接する面(=開口部)が増え、家の中にさまざまな方角から光が入る。
1階の寝室や和室には大きな窓が設けられ、シンボルツリーが眺められるようになってる。また、2階は家族が集うLDK。このフロアは、木造で広い開口部がとれるSE構法のメリットを生かし、ルーフバルコニーとつながる幅約1.3mのガラス4面の掃き出し窓を設置。リビングも吹き抜けになっており、まさに開放的な空間となっている。ルーフバルコニーには花壇を設け、季節ごとに花が咲く植物を植える予定だそう。「LDKからはもちろん、子供たちが宿題をするスタディコーナーからも中庭が見えます。3階の吹き抜けの回廊部分から見下ろす庭も格別。実際に住んでみて、光と緑に囲まれた空間だと実感しています」と、奥さまもうれしそうだ。

室内にも壁を立て大空間のアクセントに

また、LDKに入ってまっ先に目に入るのは、階段沿いに1階から3階までを貫くように立つレンガ調の壁。「センターウォール」と名付けたこの壁は、LとDKを区切るようにフロアの中央に立つ。「大空間の一部をあえて壁で遮ることで、逆にその奥行きを感じさせる効果を狙いました。一部を仕切るだけなので、光も入り、風も通ります」と高木さん。階段の素材は木の家がナチュラルに傾きすぎないようスティールを選択し、手すりは細く端正に。センターウォールとこの階段は、家全体をモダンな印象にする役割も果たしている。

隅々まで考え抜いたデザインで高機能・低コストを追求

この家を手がけたIDA HOMESは、今回、玄関のシュークローゼット、壁面収納のほか、棚やデスク、テレビボードまでほとんどの家具を造作。これによって、家全体のデザインが統一され、よりすっきりとした空間が生まれた。シンプルで直線的なデザインの家具は、天井の木目やタイルのパターン、階段の鉄骨のラインなど、素材使いの美しさを際立たせる。
エントランスのタイルの脇にはダークグレーの艶のある小石を散らした。同色でも質感の違う小石部分が帯状のラインを描いて美しい(写真p.074-3)。実はこの小石は、タイルの余白に敷き詰めたもの。できるだけ半端なタイルを出さないよう、60×30㎝のサイズのものを無駄なく割り付けて、コストダウンにつなげた。小石を敷き詰めた部分がタイルの下にこもりがちな湿気を逃がすという機能的なメリットもあった。
センターウォールで仕切られた大空間には、開放感と同時に、壁に守られるような居心地のよさがある。壁の使い方、素材の用い方、ライフスタイルに合わせた造作家具。S邸はこうした細やかな部分にまで、デザイン的な美しさだけでなく、機能向上、コスト削減のための仕掛けがちりばめられている。デザインだけでなく、機能面にも長けた、光あふれる空間が実現した。

取材・文 間庭 典子

S邸

設計 IDA一級建築士事務所 施工 IDA HOMES
所在地 兵庫県西宮市 家族構成 夫婦+子供2人
延床面積 232.03㎡ 構造・構法 SE構法

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