2017.02.09

静寂と陰影を楽しむ葦と無垢材の家

静寂と陰影を楽しむ葦と無垢材の家

緑化協定に守られた木々に囲まれるLDK

T邸のある滋賀県草津市は立命館大学、滋賀医科大学などのキャンパスや図書館が集まる文教地区。なかでもこの若草・青山エリアは、その名のとおり緑豊かな高台の住宅地で、緑化協定に守られた地区だ。敷地内の木を伐採するのにも町並み保存委員会の許可が必要で、建蔽率が40%という例も。T邸は裏に商業施設があるため建蔽率60%だが、それでも規制は厳しい。ならば発想を転換して、その環境を生かした設計にしようと考えたのが、設計を担当した金山 大さん。小窓を各所に設け、家のどこからでも外部の緑が楽しめるようにプランニング。また、建物と敷地の境界線の間は1.5mあけなくてはならないが、その空間を無駄にせず、洗濯物を干すスペースとして活用。外部からは洗濯物が見えないように工夫をしている。
また、圧巻なのは、1階のLDKと2階のプライベートスペースをつなぐ大きな吹き抜け。軒下4.036mからさらに高く上がった5.185mの勾配天井が、空間にさらなる広がりを生んでいる。吹き抜けの南側は全面が開口となっており、2階からも緑の風景を楽しむことができる。
住み手の希望は「無垢材を生かした木の豊かさを感じる家」。「木の温もりに包まれて暮らしたい」という要望をかなえるため、フローリングにはナラ材、天井は琵琶湖名産の葦よしボードなど、自然のままの風合いを生かせる無垢材に。フローリングの塗装にはひまわり油や大豆油などの再生可能なオイルと植物ワックスをベースにした無公害木材保護塗料「オスモカラー」を使用。有害な化学材料を一切含まず、安全に、かつ木そのものがもつ美しさを表現できる。SE構法の構造部分も無垢材の中で自然に調和し、吹き抜けをさらに広々と見せている。

スケール感のある造作建具や階段で陰影の美しさを演出

ともすれば重い印象になりがちな「無垢材の家」だが、薄手の板を使用した階段や格子などを効果的に取り入れ、軽やかにまとめている。刻一刻と変わりゆく光と影が美しい。「朝の光はもちろん、夜も階段の影が壁に映ります」とご主人。2階の廊下はすのこ床にしたため下の空間が透けて見え、より広さが感じられる。
建具は規格外のスケールならではの迫力ですべて造作であつらえ、シンプルな空間のアクセントに。なかでもLDKの大開口の格子の網戸は高さが2m以上。庭を挟んで公道に面しているが、格子により外部の視線からプライバシーを確保。鍵付きの木製格子網戸なので、夏の夜には外からの風を感じながら心地よく眠ることができ、庭が見渡せる2階の和室まで涼しい風が入る。造作建具が装飾面でも機能面でも快適な空間づくりの立役者となっている。

敷地をアイデアで広くし洗練された空間を実現

限られた空間を有効に活用するため、高さが必要のないガレージは天井高1.95mにし、その上の階の子供部屋をロフト付きに設計。キッチン裏のパントリー、玄関の納戸、広いウォークイン・クローゼットなど収納スペースを十分に確保し、最小限の家具でスタイリッシュに暮らしている。「こんな家に自分たちが住めるなんて。それが率直な感想でした」とご主人は語る。ゴールデンウィークの最終日、暇をもてあまし、なんとなくモデルルームで行われたイベントに立ち寄ったことをきっかけに、工務店が提案する注文住宅の自由さと、独創的なプランをゼロから生み出すことも夢ではないと気がついたという。「予算やローンの組み方など見当もつかなかったのですが、大輪建設のコーディネイターが、ライフプランナーのように人生設計までも提案してくれました」とご主人。静寂の中でやわらかな陰影を楽しむ大空間は、工務店との二人三脚によって完成した。

取材・文 間庭 典子

T邸

設計 金山 大(スウィング) 施工 大輪建設株式会社
所在地 滋賀県草津 家族構成 夫婦+子供2人
延床面積 144.79 ㎡ 構造・構法 SE構法

この家を建てた工務店

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