2022.03.07

多彩な素材使いが空間の可能性を広げる武蔵野の家

光の量で表情が変わる艶のある素材使い

無垢の木材や土、麻のクロス
自然由来の本物に囲まれた邸宅

閑静な武蔵野の住宅地にあるT邸は、住み手のクリエイティビティが光るさまざまな素材を取り入れた邸宅。玄関の扉を開くと版築仕上げの紫の左官壁と、ウォルナットの上がり框が目に入る。正面にはニッチを設けて飾り棚にした。和の伝統を大切にしながら、斬新なアイデアで遊び心を取り入れたデザイン。そのまま進むと窯業サイディングを貼り、壁面に鏡をバランスよく散らした階段ホールへ。猫が日だまりの中で昼寝できるようにとリクエストした踊り場の大きな開口から見える植栽は、鏡に反射してグレイッシュな空間に色彩を添える。階段の手すりは鉄骨と強化ガラスで存在感を消し、シースルーの階段板でアーティスティックな壁を主役にした。
2階は開放感のあるLDK。「窓枠を取り除くなど、視線に入る線を極力減らす工夫をしながら、余分な装飾を排除した空間構成を目指しています。全体をグレートーンの色調で統一することで、緊張感がありつつ落ち着いた雰囲気にまとめました」と設計をしたクウェストの可児義貴社長は語る。グレー1色の壁だが、塗装下地を5種類使用し、透かし模様のような、微妙に異なる色調を表現している。「玄関から廊下のアプローチにかけて、色調を抑えながらも、量産品新建材(工業製品)を使用せず、土や木、麻のクロスやスレートなどを取り入れています。これらの自然由来の素材は、経年に伴う劣化が遅いのです」と可児社長。テレビを囲む壁面に貼ったのは、なんとカーペット素材だそう。「これは初めての試みでしたが、独特の質感が出ましたね」と可児社長。このように実験的なあしらいを各所に配した住まいは、奥行を感じさせる。

空間の核を明確にすることで
ブレない空間づくりに成功

そんな実験の後押しとなったのは、奥さまの卓越したセンス。クウェストではプラン提出前に理想の空間イメージのビジュアルを集めたスクラップブックをつくってもらうそうだが、その構成を見て可児社長は驚いたという。イタリアのモダンファニチャーのカタログのように洗練され、編集された“作品”だったからだ。「ドイツの古材をリサイクルした黒塗りのダイニングテーブルを置くことは当初から決めていました」と奥さま。LDKの核が定まることで、その存在感に調和し、引き立てる素材選びが進んだ。
「Tさんは理想のイメージが明確でしたが、それを強制するようなことは決して言いませんでした。『希望はこうで、あとはプロにお任せ』という姿勢は一貫していたので、工事予算の調整がしやすく、対案も出しやすい。結果、ブレがない統一感のある空間となりました」と可児社長は言う。

自分にとって大切なものを選ぶ
それが理想の空間づくりへの道

その審美眼は、Tさんのお子さまにも受け継がれたように見受けられる。工作が大好きだという小学生の息子さんが夢中になっているのは、仏像。自室のスタイルも伝統的な和室を希望した。そこに使われる木材も一緒にショールームまで出向き、自ら選んだ。床の間には、おじいさまが彫ったという仏像を自作と共に飾っている。
余分なものを排除し、大切なものを選び取る感性があれば、設計時からインテリアにこだわることは功を奏する。T邸は計画時から理想のイメージを明確にし、デザイン力のあるプロに出会うことで唯一無二な住まいが完成した。

取材・文/間庭典子

T邸
設計施工 クウェスト 所在地 東京都武蔵野市
家族構成 夫婦+子供3人+猫 敷地面積 172.72㎡
延床面積 137.96㎡ 構法 木造SE構法

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