2015.12.11

バルコニーからの光と風を感じる住宅

バルコニーからの
光と風を感じる住宅

耐震と、木の温もり
相反する要望をかなえる

設計にあたりAさんご夫婦がまず条件としたのが、カッシーナの紺のソファと吉原通雄氏のリトグラフが映える広々としたスペース。そして開放的なバルコニーだった。しかしリサーチで訪れたいくつかの工務店では木造では3m以上の天井高は不可能という回答。RC造は予算をオーバーしてしまうため、決断しかねていたという。「友人のお宅が理想的だったので、そのお宅を設計した深澤さんに相談したところ『できますよ』と即答だったので、拍子抜けしてしまいました」と奥さま。そのフランクな人柄に惹かれ「この人になら嫌なものは嫌といえる」と直感し、設計を依頼することにした。

神戸出身で震災経験のある奥さまにとって、耐震性も譲れない条件であり、断面欠損の少ない強固な接合で、骨組み全体で家を支えるSE構法の強さも魅力だった。東日本大震災においても、SE構法で建てられた建築物は、地震による倒壊がゼロだったという。

「建蔽率によって斜めにカットした天井が低く感じられて、施工中は理想通りになるのか不安でした。ところが塗装したらぱっと明るく広がり、想像以上の仕上がりだったんです」とその驚きを語る。斜めのラインは逆に高さを強調するアクセントになった。こうして木の温もりに包まれた天井高4.0mの大空間が完成した。

暮らしてわかった完璧な動線
計算しつくされた設計

「実際に暮らして、さらに感激したのは動線の完璧さでした。洗濯にしても掃除にしても日常の作業がストレスフリーなんです」と奥さまは語る。たとえばハンガーにかけた洗濯ものをそのままバルコニーに運べるよう、洗濯機の前にポールを付けるなど、生活の中で便利さを再認識した工夫も多い。

細かいオーダーのひとつである「お掃除が楽な家」は、すこしグレーがかった風合いの大きめのタイルを選び、目地も白ではなくグレーにすることで解決。見本では暗く感じたが、光がふんだんに入る廊下では、これくらいのトーンのほうが馴染むことが生活してみてわかった。

ベッドルームから見上げるとまっすぐ伸びた中庭のヒメシャラの木が美しい。その奥の階段のラインも効果的だ。「だから真っ白な階段より、ウォールナット材を取り入れることを提案されていたのか、と納得しました」。台所の奥にも窓を付けることを希望したが、「バルコニーや正面の窓からの採光だけで充分」と深澤さん。キッチンに立ってみて、その意味がわかったのだそう。光が空間全体にまわっているより、視線が定まり落ち着くのだ。実際に暮らしたとき、どんな視界か、日当たりか、風通しかを計算しつくした設計に、トータルコーディネイトの巧みさを実感したという。

太陽の光と風の力を味方にし
自然と共生するSOWEデザイン

この家の自然の力を最大に生かす設計は、SOWEデザインに基づいている。SOWE(ソーウィー)とはSun&Wind-Energyからの造語で、エアコンなどの機械設備に極力頼らず、太陽や風の力を味方にし、四季を通じて快適に過ごす家づくりだ。立地やその地域の気候を考慮して窓を配置し、季節ごとの太陽の動きを見て光を最適に取り込む。熱気や冷気を遮断する外張り断熱工法により、少ないエネルギーで快適に過ごすことができる。ガラスは断熱性に優れたLOW-Eガラスを採用。地球環境にもやさしいエコな住宅だ。

「季節を感じる毎日を楽しんでいます」と奥さまは語る。知り合いや生徒さんの要望に応えてこのLDKで紅茶教室を開くこともあるそう。ご友人が集まる機会が増え、バルコニーでBBQパーティも開催。やわらかな光と風が心地いい。都会の中で自然とともに暮らす生活を満喫している。

取材・文 間庭 典子

A邸

設計 深澤彰司 施工 株式会社テラジマアーキテクツ
所在地 東京都世田谷区
家族構成 夫婦+愛犬1匹
敷地面積 113.49㎡ 延床面積 111.69㎡

この家を建てた工務店

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