光あふれる大空間を楽しむコートヤードハウス


床はオーク。白やベージュ、グレーで仕上げたインテリアが北欧モダンの世界をつくる。ラジエーターの縦ラインがさりげなく空間をゾーニングする役目も果たす。

リビングの右手に玄関ホール、左手に階段、正面に和室が見え家族の気配が伝わる。リビングは北に向いているが、正面の壁に当たる南からの光が間接光となり室内を照らす。

中庭は優しい色調のタイル張り。リビングの開口部の中央が大きく開くので、気軽に出入りできる。

階段下のヌック。一段高くして下に間接照明を施した。ベンチのように腰掛けたり、上に座ったり、寝そべったりと、思い思いに楽しむことができるスペース。

キッチンから見たLD。家族がどこにいても目が届く。短焦点のプロジェクターで壁面に投映して楽しめる。間接照明で床を照らす壁付けの収納家具は造作。正面の収納の後ろにワークスペースがある。

1.正面は洗面などの水回りとユーティリティスペース。2階には個室を設けた。/2.ゲスト用に設けた和室。中庭を挟んでLDKの反対側にあり、静かに過ごすことができる。

3.ワークスペースに設けたヌック。玄関ホールの横にあるので外出用の小物などを置いておくことができる。カーテンはLDKのもの。電動式でここに畳み込まれる仕掛けでLDK内に残らないので、カーテンをしていないときの空間がすっきりする。/4.リビングの一角に設けたワークスペース。ここだけはクローズな空間にして集中できる場所にした。

外壁は透湿モルタル塗装。壁をやや高く立ち上げて屋根の傾斜を隠し、シンプルな箱型の外観にした。無駄な線を省いて整えた水平ラインが美しい。正面の壁はタイル貼り。わずかに下げて植栽スペースとすると共に、立体感を創出。プライバシーに配慮して窓は設けず、壁を植栽の影を楽しむキャンバスに。後方へ回り込むと玄関がある。

5.ランドリースペース。洗濯から乾燥、アイロンかけまでここで完結し、室内干しができるので冬も安心。/6.ゆったりとした洗面スペース。右の格子戸を開くと和室がある。

玄関はミラーを使って広がりを演出。
性能とデザインを両立させた“ダウンジャケット”の住まい
まるで昔の縁側のように、階段下に心地よいヌックが設けられたS邸。コートヤード(中庭)を囲んで明るい日差しと爽やかな風を楽しみながら暮らす家族4人の住まいだ。以前はマンションに住んでいたが小学校入学を控えた2人の子供の成長も考え、土地を購入して戸建ての家で暮らすことにした。家づくりのパートナーに選んだのは、住宅や商業施設、医院施設などを幅広く手掛けているroomz星野建築事務所。建て主から、外側は閉じてプライバシーを守り庭を囲んで開放的な暮らしを楽しみたい、ヌックや書斎も欲しい、ガレージはビルトインに……と、さまざまな要望を受け、星野貴行さんが基本デザインをまとめた。
「一部を2階建てにしたロの字型のコートヤードハウスを考えました。断熱性やランニングコストに配慮したいというご要望もあり、世界トップのドイツ基準の環境性能を確保しながら、体に優しい輻射式の冷暖房を採用しています」と星野さん。元々roomz星野建築事務所は日本の最新の耐震構造と世界一厳しいドイツの環境省エネ性能を組み合わせたハイブリッド設計を特徴としている。この住まいでもドイツで開発された木質繊維断熱材と木製トリプルサッシを採用して高い断熱性を確保した。「日本の家の主流は気密シートで包んで、内外を切り離すことにより熱の移動を抑えるいわばレインコートの家。しかし、ドイツ基準の家づくりは羽毛のような自然素材でしか存在しないような、湿気は逃しながら高い断熱性と蓄熱性を兼ね備えるダウンジャケットの家です。新潟のような寒冷地では、こちらのほうが明らかに快適です」
スタイリッシュなデザインのラジエーターに冬は温水、夏は冷水を通して輻射熱で暖冷房するシステムも、この高性能空間で大いに魅力を発揮する。温風や冷風で空気を暖めたり冷やしたりするのではなく、熱線がダイレクトに作用し、風が当たる不快感もなく隅々まで快適な空間が生まれる。しかし、S邸のいちばん大きな魅力は、世界トップクラスの耐震性と断熱性を備えながら、その“重装備”をまったく感じさせない軽快で美しく開放的な住まいであることだ。
建設地の新潟は寒冷地で、法律上クリアしなければいけない積雪荷重は1mと決まっている。屋根に1mの雪が載っても、それに耐える構造の強さを確保しなければならない。積雪荷重1mは新潟市では屋根1坪(約3.3㎡)あたり約1,000kgの重量があることを意味している。それに耐え、しかも耐震等級3という最上位の評価を得るためには、誰もが太い柱や梁が並び、壁は厚く窓の小さい家をイメージするのではないだろうか。しかしS邸はそうした制約をみじんも感じさせない。LDKは天井高3mで間仕切り壁も柱も見えない。中庭に向かう大きな開口部は幅6mもある。サッシはトリプルガラスとは思えない軽快な印象で、インテリアも北欧の雰囲気が好きな家族に合わせ、オークをベースに、グレーやベージュなどの上品な色で明るく仕上げられている。
家族の健康や安心をしっかりと支えながら、明るく開放感にあふれるS邸。50年、100年という歴史を家族と共に生き続ける理想の住まいだ。
取材・文/酒井 新
S邸
設計施工 | roomz 星野建築事務所 | 所在地 | 新潟県新潟市 |
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家族構成 | 夫婦+子供2人 | 敷地面積 | 277.45㎡ |
延床面積 | 225.10㎡ | 構法 | 木造SE構法 |