2023.07.10

光をもたらすスリットウォールに囲まれたコートヤードを愛でる邸宅

雪深い地域性に配慮しながら、通年の心地よさを実現

風雪から守りつつ、光を取り込む
スリットウォールという選択

冬が長く雪深い新潟では、年間を通して心地よい家が何よりも貴重な存在。季節の移り変わりを楽しめる中庭、コートヤードを囲んだA邸はそんな理想をかなえた邸宅と言える。敷地は東西に長く、それを生かしてLDKの南側ほぼ全面が開口になる伸びやかなプラン。通常、冬の寒さを考えて北側は閉じるのがセオリーだが、A邸の北には他の建物がなく、ヌケが得られるため、長い窓を配することで室内にさらなる光が得られた。「冬は風と視線を遮り、夏は風と景色を取り込むために北側はスリットウォールです。3mの高さのガラス窓は既製品にないため、接合部の位置を配慮し、2枚のガラスをつなげて長く1枚に見えるよう調整しました」とroomz 星野建築事務所の星野貴行社長は解説。その結果、南北からの十分な採光と通風でA邸の内部は常に快適。さらにコートヤードには水盤を設け、庭でゆったりと過ごせるよう広いウッドデッキが。庭をコの字で囲む住まいの西側には、ランドリーと浴室を配置。入浴後、星を見ながら涼むことができ、ワンフロアでLDKともつながるウッドデッキは、アウトドアリビングのような役目をもつ。リビングの奥は子供室やプライベートジムを兼ねた多目的スペース。「生活感のある機能を集約しています」とAさん。コロナ禍で外出が制限された時期は、家でエクササイズできることで気持ちをフラットに保てたという。また、通学に必要なものの収納場所でもあり、ここで勉強することも多いそう。他にも2階の動線上にあるセカンドリビングなど、A邸は一人でくつろげる快適な居場所が各所にある。

ヌケを感じる伸びやかなラインで
さらに広がりのある空間に

クリーンで軽やかな空間を引き締めるのは黒のスチール。木のステップが宙に浮くように造作したスチールの階段や、それぞれの場所の境界線となる扉や廊下なども黒のスチールとガラスを採用し、重厚さとヌケを表現した。また、リビング端に取り付けたミラーもさらに東西方向の空間が伸びていくように感じられる視覚効果がある。ダイニングには同じデザインのペンダントライトを並べて、伸びやかさや奥行きをさらに強調。玄関からLDKへとつなぐ長い廊下はギャラリースペースで、好きなアートを並べて楽しんでいる。これもまた、ヌケを演出し、敷地をさらに広く感じられる装置の一部となっている。

プライバシーを守りつつ
デザイン性を追求した外塀

A邸は外観も特徴的。幅の異なるスギ材をランダムに並べて、立体的な装飾に。カフェかギャラリーと見紛うほど洗練されている。「奥の居住エリアが外塀ですべてカバーされるよう調整しました」と星野社長。玄関からLDKにかけての廊下や、浴室などの水回りは平屋にし、LDKの上部のみ2階建てに。それを内部の様子が一切わからないように外塀でカバーしている。
「住まいがほぼ完成!というタイミングで、外塀もスリットウォールにしてはどうかというアイデアが浮かび、急きょ、デザイン変更に対応していただきました」とAさん。その結果、デザイン的にもユニークな外塀が完成した。夜はライトアップしたコートヤードから光が漏れ、外から見てもフォトジェニック。住み手のアイデアに対応する柔軟な設計力と英知が、Aさん家族の安心安全な暮らしを叶え、加えてインテリアと外観に洗練された美しさをもたらしている。

取材・文/間庭典子

A邸
設計施工 roomz 星野建築事務所 所在地 新潟県三条市
家族構成 夫婦+子供3人 敷地面積 413.24㎡
延床面積 216.31㎡ 構法 木造SE構法

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