2016.07.06

【ガレージハウス】古都に馴染む、進化系和モダンの住宅

古都に馴染む、
進化系和モダンの住宅

都会のホテルのような
究極にシンプルな空間

観光であわただしく動きまわる旅より、都会のホテルでゆっくりと過ごすのが何よりのバケーションだと語るご主人。先日も東京・大手町の「アマン東京」に滞在し、何もしない休日を過ごしてきたばかり。目指すのはシンプルでホテルライクな進化系ZENスタイル。どことなく和を感じさせながら、余分なものをそぎ落とした空間が理想だという。
そのためにKさんご夫妻がまず希望したのが、ホテルのように最低限の家具で暮らせるようにすること。キッチン背後の壁を全面キャビネットにしたり、寝室と1階オフィススペースにデスクや書棚を設置するなど、造作家具を多くつくり付けた。さらに、寝室と同等の大きさのウォークインクローゼットを確保。これも生活感を見せない空間づくりに一役買っている。「無駄なものを一切排除した何もない空間が心地いいのです」とご主人は満足そうに語る。

限られたスペースで開放感を出す
視覚効果を狙った「仕掛け」

造作家具のほかにも、この家にはさまざまな視覚効果を狙った「仕掛け」がある。設計担当の河嶋一志さんは語る。「たとえばリビング両脇の開口部。両サイドから自然光が入ることで広々と感じます。大きな開口に見えますが、全面の窓にした場合、規格外で高額になるため、大小の窓を組み合わせ、その継ぎ目の部分に飾り棚を設置して、つなぎ目を隠しているのです」。
もうひとつの仕掛けは奥まで見渡せるヌケ。2階は道路に面した窓際から奥の寝室まで一直線に見通すことができ、「広がっていくような開放感が出ました」とご主人。さらに壁には鏡を設置し、奥行きを演出した。また、このラインに沿うように設置されたトーヨーキッチンスタイルのベーシックなモデル「ポルト」のアイランドキッチンと同素材のカウンターも効果的で、この直線がどこまでも続くような錯覚をもたらす。廊下のつきあたり手前にあるウォークインクローゼットの壁はあえて低くし、空間にゆとりを出した。さらに、リビングの天井が高く見えるのは、構造部分を隠していないから。天井板を付けず、SE構法の骨組みをそのまま見せている。
階段とダイニングキッチンの境界や玄関にはPS社の放射冷暖房システムを設置した。スチールの中を流れる冷水や温水が室温を快適に保つシステムだが、白いルーバー状のフォルムがパーテションがわりにもなっている。「通常の冷暖房特有の乾燥がなく体にも優しい気がします。適正な湿度が保たれるので、実際の室温とは体感温度が3度くらい違いますね」とご主人は言う。

人が集う会場ともなる
テラスやエントランスを設計

外観、ガレージなど、外の空間にも気を配った。下鴨神社からほど近いこの場所は景観を守るための規制が厳しい歴史地区にあたる。「歴史的建造物の多い京都市中心部にはエリアごとにそれぞれの規制があります。たとえばこの地域では、屋根はグレーの瓦か銅板でないといけません」と河嶋さん。条例にとらわれるあまり、いびつな外観になる住宅も多いが、京都市内のモダンな住宅を多く手掛けてきたビルド・ワークスは、それらの条例や街並みを考慮したプランを提案した。
1階はKさんのオフィス。インテリアデザインやウェルネス関係など多くの事業を展開するKさんにとって、ガレージの有効活用もテーマだった。「ご自宅を開放してパーティや展示会を開催することもあると聞いていたので、テラスをゲスト用の駐車場としても活用できるようにしました」。夏はそのテラスでバーベキューを楽しむこともあるそう。またエントランスホールは広めにし、ガラス張りにすることで外と中を自然につなげた。半屋外気分で気軽なレセプションの場にもなるプランだ。
現代のライフスタイルのためにデザインされながらも、古都に調和する、進化系和モダンの家が完成した。

取材・文 間庭 典子

 

S邸

設計 河嶋一志(ビルド・ワークス) 施工 ビルド・ワークス
所在地 京都府京都市 家族構成 夫婦
延床面積 167.19 ㎡ 構造・構法 SE構法 2階建て

この家を建てた工務店

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