2020.08.31

空間で変化をつけた究極のミニマムハウス

どの層へも採光と眺望を約束する、南面の大開口

敷地の高低差を生かした
3層吹き抜けの大空間

 
ブドウ畑に囲まれた緑豊かな地に立つS邸。玄関から進むと目の前に広がるその大空間に、訪れたゲストはみな圧倒されることだろう。そこは中2階にあたる玄関のフロア、庭に面したLDKのある1階、寝室や子供室などプライベートな空間をまとめた2階の3層を貫く吹き抜けなのだ。どのフロアからも大開口から空と芝生が、そしてその先には上田の山々が望めて心地よい。
「駅に近く、自然にも恵まれた環境でしたが、高低差が激しいという側面も。そこで庭に面した一番下の層をLDKのある1階とし、公道に面した中2階に玄関を造りました」とSさん。基礎工事にはコストを要したが、その分1階に大きな収納スペースを確保できた。南側の大開口をどの階から望むかによって見え方が変化するのも楽しい。階段周りの各スペースを、ふとした時間を過ごす間になるよう広めにとるなど、スキップフロアを有効に生かす工夫もした。3層を貫く大空間が映え、高低差というデメリットを逆手にとり、メリットに転じた好例だ。
 

目指したのは「何もない家」
柱も壁もない大空間が実現

 
「何も物を置かない、究極のミニマリストのような暮らし方を目指したんです」とSさん。当初、シンプルを極めた無印良品の家を検討したが、長野で展開する工務店がまだなく断念。そこでSE構法を手掛けている工務店を検索し、M-STYLEHOUSEに行き着いたそう。「柱も壁もないぽっかりと広がった大空間が、木造でも可能だと知り、驚きました」とSさん。SE構法は強度が均等で構造計算ができる集成材を使うため、どの部分にどれくらいの負担がかかるのか、地震の揺れに対してどの部分を強化すべきかなどを予想でき、必要最小限の柱や壁で耐震性に優れた構造が可能に。さらに特殊な金具で接合することで、強靭な構造体となる。最近では学校やホテルなどの大型施設でも、SE構法は採用されている。「強度が数値で確認できることにより設計の自由度が高まるので、通常の住宅では例をみない3層の吹き抜けも可能なのです」と、M-STYLE HOUSEの設計担当、酒井良子さんは解説。
必要最低限の家具を選び、収納やデスクなどは造作。移動できる家具はソファとダイニングテーブルのみという徹底ぶりでミニマムなLDKを構築し、白い空間に黒を利かせてシャープにまとめた。なかでも圧巻はスタジオのように広く、洗練されたキッチン。天井が高く、庭にも面して開放的だ。家族で料理を楽しめるよう、アイランドキッチンとコンロの間は0.9mとゆとりをもたせた。
 

自然とより親しくなれる
テラスと庭を結ぶ階段

 
キャンプが趣味というSさん。庭でのバーベキューなどによく使う屋外用のテーブルやチェアはシューズクローゼットと並びの棚に置き、必要なときにすぐ取り出せるようにしている。また、育ち盛りの子供の遊び道具も収納。室内をスッキリとさせることに、このゆったりとした土間収納は貢献している。
「1階床と庭も高低差がでるので、そこをつなぐテラスを階段にすることで解消しました」と酒井さん。ひな壇のような、テラスの階段部分はベンチのようにも活用でき、日なたぼっこには最適。今夏には20名以上が集うバーベキューパーティを開催したという。大開口のミニマムハウスは、太陽と友達になれるアウトドアフレンドリーな家でもある。
 

取材・文/間庭典子

S邸

設計施工 M-STYLE HOUSE 所在地 長野県埴科郡
家族構成 夫婦+子供1人 敷地面積 349.09㎡
延床面積 123.47㎡ 構法 木造SE構法

この家を建てた工務店

MLWELCOMEの新着記事

MLWELCOME

MLWELCOMEは『モダンリビング』誌と「重量木骨の家」とのコラボレーションで特別編集されたムック本として2015年10月に発行されました。厳選された木造住宅の実例をウェブサイトでもご覧ください。