2016.04.14

全長5mのキッチンが中心の住宅

全長5mのキッチンが
中心の住宅

天井高3.4mの白い空間で輝く
サイルストーンのキッチン

東京・世田谷の閑静な住宅街にあるM邸の主役は全長5mのポーゲンポールのアイランドキッチン。奥さまはメディアや数々のイベントで活躍される料理研究家。「家全体の設計と同じくらいキッチンの構想には時間をかけ、約1年間、並行して進めました」と振り返る。撮影用のスタジオや、会員制お料理教室のサロンとして活用することも考えての規模だったが、それでも規格外のスケールだ。数々のユニークな豪邸を手掛けてきたテラジマアーキテクツの営業担当者も最初は耳を疑い、戸惑ったという。
アイランドキッチンにはスペインに本社を置くコセンティーノ社のサイルストーンを使用。素材の94%を天然水晶で構成することで耐久性を高めた人造石だ。強度を誇るだけでなく、耐酸性、抗菌性にも優れ、キッチンには最適な素材。また、光を反射するきらめくマテリアルも華やか。漆喰の風合いを生かした白い壁、清潔感のある白い大理石タイルに囲まれた天井高3.4mの開放的な空間が、上品な輝きを放つアイランドキッチンを際立たせている。

キッチンを中心とした1階は
食の喜びを共有するための場

奥さまの希望は「家のどこにいても『食』を楽しめる空間」。そこで設計担当の深澤彰司さんは広々としたパティオを提案した。アウトドア家具はDEDONから曲線が美しいマラケッシュコレクションをセレクト。生き生きとしたグリーンに囲まれ、小鳥たちも集まってくる高原のテラスのような空間が生まれた。青空の下で食事ができる中庭は第二のダイニングとなった。シンボルツリーはまっすぐに伸びた竹。「驚くほどすくすくと育ち、今では外壁の外からも見えるほどに。去年はここで採れたタケノコをおいしくいただいたんですよ」と奥さま。床は室内と中庭ともに大判のタイルで統一した。全面タイルは個人宅としては珍しいが、床暖房の温もりがじんわりと心地よく、毎日の掃除も楽で予想以上に機能的だそう。真っ白な床で内と外がつながり、のびやかなワンフロアとなった。
現在は300名以上のキャンセル待ちがあるという奥さまのサロンだが、始まりは食事に招いた友人のリクエストで開いたプライベートレッスン。おもてなしの心を伝えるため、レシピやテーブルセッティングはもちろん、お客さまの前で手際よく盛り付けるための下ごしらえまでを教えている。「『私も誰かを招きたくなってきました』という生徒さんの一言がうれしくて」と奥さま。このキッチンから、人を食でもてなす喜びの輪が広がっている。

2階はゆっくりと
夫婦で語らう空間に

一方、2階はがらりと雰囲気を変え、床やドアなどすべてをブラックウォールナットで統一。コーディネイトはご主人が担当した。黒や赤を差し色に、落ち着いた大人のプライベート空間をつくりあげた。黒一色でまとめられた浴室もシャープな印象。多くのゲストが集う1階キッチンのフェミニンな軽やかさと、2階プライベートリビングのシックな雰囲気とのコントラストが絶妙。人々とともに楽しむ華やかな時間と、夫婦で過ごすくつろぎの時間の切り替えにも役立っている。
1階、2階ともに、中庭を取り囲むコの字型のレイアウトのおかげで、どの部屋にも明るい光が降り注ぐ。耐震のための柱に邪魔されることなく、全面開口で中庭を囲めるのは、SE構法ならでは。今までの在来軸組工法が筋交いによって建物を支えるのに比べ、SE構法はラーメンフレームと強度の高い耐力壁で支えるため、最小限の柱や壁で耐震性を高めることができるからだ。しかも一棟一棟、構造計算が可能なので、数値でその安全性がわかる。
安心で開放感のある家の特注のキッチンで、今日もご夫婦は心から食と暮らしを楽しんでいる。

取材・文 間庭 典子

M邸

設計 深澤彰司(テラジマアーキテクツ) 施工 テラジマアーキテクツ
所在地 東京都世田谷区 家族構成 夫婦
敷地面積 179.07㎡ 延床面積 157.81 ㎡
構造・構法 SE構法 規模(階数) 2階建て

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