自然と一体化する八ヶ岳のワインサロン


LDKと玄関の壁は、一部石張りにし、柔らかなトーンのなかにも重厚さをプラス。薪ストーブを囲み、ワインを片手に、紅葉や雪景色も楽しむ。

1.緩やかに時が流れる山荘で味わいたいのは地球に優しいナチュールワイン。仲間が集まってテイスティングパーティをして盛り上がることも。/2.森の景観とナチュールワインが主役の別荘であるI邸。LDKの中心となるダイニングテーブルは光が透過し、緑の反射が美しいガラスのものをセレクトした。

3方向の壁面が大開口で森に浮かんでいるような感覚になる。白やベージュを基調とした柔らかな空間に青のチェアやワインの赤が際立つ。

玄関や廊下を壁や扉で遮断しない伸びやかなプランで、延床面積が約70㎡の平屋の空間を広く感じさせている。

3.洗面、トイレ、シャワーブースをまとめたスペースも周囲の景観となじむようベージュで統一。床や壁には陶器質タイルを採用している。/4.玄関扉を開くと正面には外のシラカバの木が印象的に目に飛び込んでくる。上がり框の段差を最低限にする、鏡を効果的に配すなど、さらに空間が広がる視覚効果を狙った。

寝室もLDKや洗面スペースと同様に、できるだけ大きなサッシを取り付け、小鳥のさえずりと共に目覚めるような環境を演出した。
自然と一体になれるLDKはワインの力を引き出すエスパスに
緑輝く環境のなかで自然派ワインを楽しむサロンであるI邸。ワインインポーターとしてフランスとの2拠点生活をしているIさんが休暇を過ごす別荘だ。主役はナチュールワインと八ヶ岳の大自然。輝く緑の景観を取り込むため、建築全体がガラス張りで囲まれ、包み込まれる大開口のプランを採用した。室内からは周辺の木々を見渡せて、まるで森のなかに浮かんでいるような非日常を味わえる。また元々の敷地の起伏をそのまま生かした立体的な計画により、自然環境に影響しない建築を目指した。
圧巻なのは緑に包まれたLDK。3方向のほぼ全面が開放的な大開口であり、外部との境があいまいな、森にリンクした設計に。リビング側の大開口はそのまま外部に拡張するようにつながり、アウトドアリビングのストーンデッキとなった。伸び伸びとした空間を遮断しないよう、キッチンは壁面にコンパクトに収め、調理しながら緑の木々を愛でられる。「ワインの試飲で大切なのは先入観にとらわれずそのワインのポテンシャルを感じることです。そのために、元々もっている感性を引き出しやすく、音や香りなど雑念がない環境が望ましいのです。山の自然のなかは、ワインの試飲には最適な条件ですね」とIさんは語る。自然と一体化するLDKはワインの力をダイレクトに感じられるエスパス(空間)となった。
「Iさんが明確なイメージを描いていたので、それをどのように具体化して、そこにある自然を最大限に生かすかを考えました」と設計を担当したMstyle house(エムスタイルハウス)の酒井良子さん。部分的に鏡を張り、緑を反射させることでより奥行きや広がりを感じられる演出などを各所で提案した。「例えば玄関は扉を開くと目の前にピクチャーウインドウがあり、廊下の鏡が視覚効果をもたらしています」と酒井さんは語る。水回りの洗面、トイレ、シャワーブースを仕切ることなく1ユニットで構成することで、広々と開放的な空間が叶えられた。ここでも洗面台の大きな鏡が緑を取り込む役目を担っている。室内のどこにいても緑を感じられるこの山荘が完成し、「想定よりかなり明るく、設計段階より採光が取れたので満足しています」とIさん。
このようにテイスティングパーティも開けるような大きな空間を可能にし、ガラス張りの建物でありながら耐震等級3を確保したのは、1棟1棟構造計算をしているSE構法だからこそ。開口部も太い支柱や耐震壁、梁などに邪魔されない天井高3.5mの大空間は訪れた人の心を躍らせる。敷地にはまだ余裕があるので、将来は増築することも想定内。「枠組みと仕切りを独立させる『スケルトン・インフィル』という設計思想に基づいているのもSE構法のメリットです。強い構造躯体で建物を支え、従来の木造建築よりも壁や柱、梁が少ないので内部の仕切りを柔軟に変えられるのです」と酒井さん。
「ワイン教室や、シェフを招いてお食事とワインのマリアージュを楽しむ会を開催したいなと思っています。各方面のスペシャリストを招いてワイン以外のお話を、ワインを飲みながら語り合うイベントなどもいいですね」とIさんも将来の展望を語る。長野の四季を堪能できる八ヶ岳の拠点はIさんの未来へとつながり、広がっていく。
取材・文/間庭典子
I邸
設計施工 | Mstyle house | 所在地 | 長野県南佐久郡 |
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家族構成 | 夫婦 | 敷地面積 | 1000.38㎡ |
延床面積 | 70.76㎡ | 構法 | 木造SE構法 |