2022.04.18

歴史と自然とともに暮らす武蔵野の家

内と外の境界線をあいまいにした、庭と一体化するLDK

代々続く風景との調和を目指し
敷地に茂る草木を生かしたプラン

約2100㎡の広大な敷地に新築したM邸。桜や白樺などさまざまな木々に囲まれ、敷地内には母屋の日本家屋、農作業のための小屋などが点在する。新居は日本庭園や石造りの蔵などと並んでも、違和感がない落ち着きのあるデザインだ。壁はしっくいに鉄平石やアメリカンレッドシダーなどを組み合わせ、屋根は縦ハゼ葺きにした。「敷地の一角に自然に溶け込むような、既存の木々を生かす配置を追求しました」とオーガニック・スタジオの三牧省吾社長は語る。埼玉県さいたま市を拠点としている工務店で、造園までを手掛け、立地と調和したパッシブデザインの設計が得意。そのため都内や神奈川からの依頼も多く、首都圏全体まで受注の範囲を広げているのだそう。
このM邸は、春は桜色に染まり、夏は芝生が青々と茂り、秋は紅葉が見事。冬景色の中の白樺も美しい。「その風景を室内からも楽しめるよう、庭側のほぼ全面を掃き出し窓とし、ピクチャーウインドーのような開口にしました」と三牧社長。LDKには庭をなだらかにつなぐウッドデッキ、2階にはシダレザクラやソメイヨシノが望め、お花見ができるウッドデッキを設けた。寝室の前に並んだ白樺は、夏の日差しを遮る天然のシェードとなる。庭全体が心地よいアウトドアリビングとしても機能している。浴室や寝室とリンクしたサンルームなど、あらゆる角度から移り変わる季節を愛でられるプランである。
「庭木だったケヤキを製材して使ったり、50年以上蔵に保管されていた古材をダイニングテーブルやテレビ台、棚などに造作しました」と三牧さん。また、LDK奥の小上がりにある和室の机も既存の古木の形をそのまま生かした。外観と同様、玄関周りやLDKの薪ストーブのある壁にも鉄平石を張って、重厚感のある空間に仕上げた。奥さまの生家であるこの地を、家族の歩みを尊重しながら、新しくも懐かしい空間にしている。

太陽や風の力を味方につけて
エアコンに頼らない暮らしを実現

自然のエネルギーを有効に活用するパッシブデザインを得意とするオーガニック・スタジオ。天窓からの光を生かした採光計画も絶妙だ。廊下や洗面所の天井には開口を設け、さらにキッチンの上部にもフィックス窓を設けて明かり取りとした。「上からの光でこんなにリラックスできるのなら、浴室にも天窓をつければよかったです」とMさんは笑う。庭を眺めながらの入浴が心地よく、以前は月に数回通っていたスーパー銭湯からも足が遠のいたそう。「エアコンに頼らない暮らしが理想でした。寝室には冷房がありませんが、風が通り抜け、夏も快適に過ごせました」とMさん。

自然を享受し、愛でる
豊かで文化的な武蔵野の邸宅

奥さまがフードコーディネーター、ご主人はステージデザイナーと、アーティスティックなM夫妻。現在は不動産管理やマンションプロデュースの分野でも活躍している。そんな夫妻の家づくりは始まったばかり。敷地内果樹園では梅やブルーベリーを収穫。さらに今年、ニホンミツバチの養蜂にも成功。芝刈りや薪割り作業が日課となるなど、昔ながらのスタイルのスローライフを実践中だ。「寝室からそのままキッチンへ行ける動線なので、家事効率が上がりました」と奥さま。さらに「季節や自分たちのスタイルに合わせてカスタマイズしながら、この家を使いこなすことを楽しみたいと思います」と夫妻は語る。

取材・文/間庭典子

M邸
設計施工 オーガニック・スタジオ 所在地 東京都小金井市
家族構成 夫婦+猫1匹 敷地面積 388.86㎡
延床面積 146.49㎡ 構法 木造SE構法

この家を建てた工務店

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