名車を眺め、共に過ごすカーギャラリー


ポルシェやフェラーリなどの愛車が並ぶ空間。リビングとガレージの境界線はあいまいで、1人でくつろぐときも、仲間と語らうときも、視界には常に愛車が入る。

ガレージの東側に位置しているラウンジ。キッチンやダイニングの機能を備えつつ、車を眺めながら過ごすリビングスペースを広くとった。ソファに座り、ワインを口にしながら愛車を鑑賞できる。

エンジン音が最高のつまみに。グラスを片手に、仲間との話は尽きない。

最大で8台の車を駐車できる。照明も装飾の一部として、車のフォルムを際立たせ、輝きを増すデザインに。

美術館やアートギャラリーのような外観。ロケーションは京都の中心部だが、門を閉ざすと周囲の喧騒は感じられない。

部分的に天井高を上げ、トップライトが直接視界に入り込まないよう設計。勾配天井に差し込む自然光により、上部へのヌケ感を出した。天井そのものがアート作品のような存在感がある。
「究極のおもちゃ箱」であり、次世代に受け継ぐ資産のカーギャラリー
「このガレージハウスは究極のおもちゃ箱です」と笑いながら話すNさんは、京都で不動産業を営む土地探しのプロフェッショナル。中心地である洛中エリアに位置するこの土地に出合ったときに、「好きなものを詰め込んだ空間を建てたらどんなに楽しいだろう」と夢を描いたそう。洛中では希有な存在である敷地間口約17mの土地を自ら購入し、ガレージハウスを建てることを決意した。
エンジン音を聞きながら、名車を眺めるのが至福の時間、と語るNさんは無類の車好き。複数所有するガレージに点在していた愛車を一カ所にまとめ、保管することが最大の目的だった。「当初はコストパフォーマンスよく車8台を保管できるガレージ機能を重視されていたのですが、Nさんの車との付き合い方を知るうちに、車と共に過ごせるラウンジこそ求めている用途ではないかと気づきました」と設計を担当したビルド・ワークスの河嶋一志さんは振り返る。
そこで、ガレージをギャラリーに見立て、愛車を眺めて過ごせるラウンジを提案。「この土地は京都の街中にあるため、外部に開き、周囲に景色を望むことが難しい条件でした。専用住居ではなく愛車と特別な時間を過ごす隠れ家なので、外壁には一切の窓を設けず、道路との境に高い塀を設けることで外部と遮断しています」と河嶋さん。
一見するとガレージとは思えない外観から門をくぐると、一瞬にして街の喧騒は遠ざかり、空気ががらりと変わる。ギャラリーのように名車が並ぶのは約200㎡の柱のない大空間。自分と車だけの静謐な時間が流れるインナーガレージだ。
先へ進むと、車を眺めながらくつろげるラウンジにつながる。キッチン側に立ち、ガレージのシャッターを開放すると、リビングから外部の横引き門扉まで、直線的に視線が抜ける。ラウンジ、カーギャラリー、テラスや庭を遮る壁がないことで、ひと続きの大きな空間になるのだ。
外壁には開口部は設けず、天井から採光するプラン。天井から差し込む光の効果で、季節や天気、時間帯によって変わる、愛車のさまざまな表情も楽しめるようにした。また、トップライトが直接的に空間へ入り込まず、柔らかな光が全体にまわるように天井の形状をデザイン。上部へ視線が向かうことにより、ギャラリー空間はより広く感じられ、迫力を増す。あまりの心地よさに、今ではNさんだけではなく、フラワーアートなどの講座を開く、奥さまのサロンとしても活用しているのだそう。
Nさんの「究極のおもちゃ箱」は資産価値が高い、未来へとつながる空間でもある。柱や壁の位置にとらわれることがない分、リフォームがしやすく、将来、寝室を増築し、終の棲家にすることも可能だ。加えて、子世代に受け継ぐ際、新築がしやすいよう、木造を選択。「鉄骨造や鉄筋コンクリート造の場合、非常に大きな基礎となり、地盤改良や地中の掘削に大きな工事が必要になります。建物の荷重が軽くなり、基礎も鉄骨造などと比較してコストを抑えられるのも、SE構法のメリットですよね」とNさんは語る。
フルオーダーの建築を得意とするビルド・ワークスに自ら思いをきちんと伝えることで、描いた夢が形となった。
取材・文/間庭典子
N邸
設計施工 | ビルド・ワークス | 所在地 | 京都府京都市 |
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家族構成 | 夫婦 | 敷地面積 | 526.34㎡ |
延床面積 | 283.37㎡ | 構法 | 木造SE構法 |