家族4人で楽しく過ごす、自然と共に育つ家


LDKの窓寄りのスペースはタイル張りにして蓄熱材とした。冬の日中に熱をため、日没後は放熱して部屋を暖める。

吹き抜けでつながる開放的な空間。天井高は5m。1階のキッチンやダイニング、2階のホールなど、家族が集まって楽しく過ごす場所がたくさん用意されている。

2階の外壁は信州カラマツと漆喰で仕上げ、玄関まわりには鉄平石を使った。ガレージを含む無柱のゲートは左右8m近い長さがあり、SE構法ならではのダイナミックな構成。玄関ドアは幅1mを確保。木製の扉が自然の風合いを感じさせる。

1.2階の洗面室ではツインボウルの洗面台を造作。グリーンのタイルがさわやか。/2.LDKの壁の一部はレンガを張り、その上に漆喰を塗った。手間のかかる手法だが古い倉庫の壁を修理したような独特の味わいに。レンガには蓄熱の効果も。

タイル壁が印象的なキッチンは作業スペースを広く取り、家族4人でそろって料理やお菓子づくりを楽しめるように。窓は下が滑り出しで開くので風が抜ける。

キッチンは造作。扉材にはカバザクラを使用。壁のタイルはイタリア産。棚を設け、その下には鍋やフライパンを吊り下げられれるよう、見せる収納を実現した。

2階の階段ホール。右手にあるのは子供室で将来は2つに分ける。壁には現場で造作した書棚を設置。天井は、構造材の梁を現しとし、できるだけ高くした。

木のベンチを置いた2階ホールは、読み聞かせをしたり、床におもちゃを広げて遊んだり。いろいろな使い方ができる便利なスペース。室内干し用のバーも用意。

2階から1階を見下ろす。ダイニングの床は北海道産のナラ。サッシはすべて国産の木製。手すりにはあえて太めのロープを使い、柔らかな雰囲気を出した。

円形のダイニングテーブルは直径130㎝と大きなタイプを特注した。空間全体の雰囲気を和らげる効果も。要所に取り入れられた黒色が木のナチュラルな空間を引き締める。

玄関からLDKに進む廊下の途中に設けた手洗いコーナー。多彩な色がそろうアメリカの老舗塗料ブランド、ベンジャミンムーアのグリーンを採用した。

1階の奥にある和室。奥さま専用のワークスペースになっている。ゲストの宿泊にも活用する。

主寝室もシンプルでナチュラルなインテリアに。正面の扉を開けると、ご主人の仕場場につながる。

真鍮はインテリアの隠れたテーマ。キッチン上のペンダントライトやシンク横のスイッチプレートなどでアクセントとして使われている。

掃除用シンクとランドリーコーナー、さらに洗面、浴室と一直線につながった2階の水回りエリア。手前側にはウォークインクローゼットがあり洗濯関連の家事はすべてここでできる、効率のよい空間構成に。

シックで落ち着いた雰囲気の濃色のタイルで仕上げた浴室。間接照明を組み合わせることで、疲れを癒す極上の空間に。
縦にも横にもつながる大空間が、家族のにぎやかな毎日を支える
休日にはシャボン玉で遊びながら子供たちが庭を走りまわったり、お気に入りの場所で親子で本を読んだり、大きなアイランドキッチンに家族4人で集まってお菓子づくりに挑戦したり。漆喰や木など自然素材をふんだんに使った温もりあふれる空間に、家族の笑い声が響く。
水回りがすべて2階ということをのぞけば、特に間取りが変わっているわけではない。庭をL字型に囲む2階建てのプランは、むしろ“普通”に見える。ところが、K邸を訪れた人は誰もが、この家がほかのどこにもない魅力にあふれていることに気付く。
吹き抜けを通して縦に、さらに柱や間仕切り壁をなくして横にもつながる空間は、どこにいても明るい光と風を感じることができて気持ちがよい。視線の先にあるものはすべてが豊かな質感と優しい表情をもち、住まいのあちこちに4人家族が楽しく時間を過ごす場所が設けられている。特別な仕掛けがあるわけではない。しかし、この家は日々を心豊かに過ごす充実した舞台だ。
夫妻がそれまで暮らしていたマンションを出ようと思ったのは、コロナ禍がきっかけ。2人が同時にテレワークをするスペースの確保が難しかったからだ。加えて、子供たちが下の階に気兼ねなく走りまわれる環境も欲しいと考え、戸建ての家を新築することにした。土地を探す一方で、地域の家づくりセミナーに参加。そこでオーガニック・スタジオの代表の三牧省吾さんに出会った。
「マンションから歩いて10分くらいのところに三牧さんの自宅兼事務所がありました。そこにお邪魔して設計士でもある奥さまの洋子さんが入れてくださったおいしいコーヒーを飲みながら、いろいろお話を聞いたり、ご自宅を隅々まで見せていただいたりしました」とKさん夫妻。その時間は楽しく、家づくりに関する考え方も近いものを感じたという。「奇をてらったようなものは要らない。明るくて風も通って、家族が毎日を健やかに楽しく過ごせる場所がたくさんあればいいな、と思っていました。その意味で三牧さんの家はとても魅力的で、大いに参考になりました」
オーガニック・スタジオが提案したプランは、道路側に屋根付きのガレージを設け、プライバシーを守りやすい敷地の奥側に庭を用意。それをL字型に囲むというもの。まさに、SE構法ならではの開放的な空間が広がる。1階をパブリック、2階をプライベートと分け、水回りも2階にして1階にゆとりを持たせることに。夫妻のたっての要望であった家族4人で料理を楽しめる、大きなアイランド型のキッチンを置いた。
また、吹き抜けでつなげた2階には寝室のほかに家族専用の広々としたホールを確保して、壁の全面を書棚にした。お気に入りの本を取り出して読んだり、おもちゃを広げたり、いろいろな使い方ができる。洗面や浴室、洗濯スペースは直線上にまとめて家事の負担を軽くした。もちろん、夫妻それぞれが落ち着いて仕事ができる専用のスペースも1階と2階に分けて用意している。
家族の日々の時間を何よりも大切にする夫妻にふさわしく、内装には木や漆喰、石、タイルなど自然の素材がふんだんに使われ、冷暖房も機械設備はあくまでも補助として考え、建物の工夫で日照や通風をコントロールしながら環境を整えるパッシブデザインを採用している。住まいにとって一番大切なことは何か、K邸は改めてそのことに気付かせてくれる。
取材・文/酒井 新
K邸
設計施工 | オーガニック・スタジオ | 所在地 | 埼玉県さいたま市 |
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家族構成 | 夫婦+子供2人 | 敷地面積 | 198.09㎡ |
延床面積 | 177.58㎡ | 構法 | 木造SE構法 |