2025.10.27

家族全員の趣味を満喫。四季を愛でる和モダン住宅

庭と育ち、庭と向き合う。旅館のような風情に満ちた和モダン住宅

桜に紅葉、南天やシダ。濃淡の緑が織りなす里山のような景色が室内に清廉な空気を呼び込む。敷地の南側に位置する庭は、まさにこの家の中心。LDKや縁側、2階の寝室やアトリエなど、家のどこにいても四季折々に表情を変える庭の景観を楽しめる。その体験は、Sさん一家に自然の中で暮らすような感覚をもたらしている。
 
 
「最大限に庭を楽しめるよう、さまざまな工夫をしています。例えばLDKの大開口は庭がより美しく見えるよう、引き違いの掃き出し窓ではなく、全開できるスライドサッシに。窓中央に枠がないため、視界を妨げずに庭を鑑賞できます」と設計を担当したつむぐ家の松尾知佳さん。リビングはカーテンではなく、障子を選択。障子を袖壁に引込めるよう壁や枠を造作し、内外をシームレスにつなげた。
 
 
「限られた敷地で庭の面積を確保すべく、LDKと庭の配置には悩みました。庭部分を削り、LDKを広く取ることも検討しましたが、最終的に庭を優先。壁付けのL字型キッチンにすることでコンパクトに収めました」と松尾さん。その結果、ゆったりとしたダイニングとリビングを保ちつつ、現在の広さの庭を実現できた。「リビングの面積としては広くはありませんが、吹き抜けと庭があることで視線が抜け、窮屈に感じることはありません」とSさんも満足そう。
 
 
造園デザインは自然植栽専門店「Aonosumika」に依頼。森や里山のような心地よい不規則性が生まれるよう、さまざまな品種を組み合わせた植栽に。四季ごとに花や実が移り変わり、色や香りで季節を告げる。植物に負担のない自然に沿った剪定をするといったこだわりよう。植栽へ光が落ちた際、映し出される影にも風情がある。夕刻となり、ライトアップされる植栽も壮観だ。「大の虫好きの息子は、引っ越してすぐにバッタを庭に放っていました(笑)。幼虫をみつけて喜んでいます」とSさん。鳥や蝶が集まる庭となった。
 
 
インテリアは「和モダンの旅館」がコンセプト。「帰宅するたびに、旅館に招かれたように感じる、ほっとくつろげる空間を目指しました」とSさん。和室だけでなく、LDKの大開口も障子で開閉し、玄関にも砂利が浮き上がる洗い出し仕上げの床や格子など、和の要素を積極的に取り入れた。脱衣所は藤むしろの床やのれんで温泉旅館のようなデザインに。リビングや玄関のギャラリーなどに娘さんの手による生け花を展示して楽しんでいる。
 
 
家族4人それぞれが趣味に没頭する個の時間も重視。Sさんの趣味である本格的な器具を備えたプライベートジムや、通勤にも使うロードバイクのメンテナンスをするスペースを玄関脇に設けた。庭を望むスキップフロアには手芸が趣味の奥さまのミシンを置いたアトリエが。ここは子供がピアノや電子ドラムを演奏する場所でもあり、家族の蔵書を集めたライブラリーでもある。リビングに敷いた畳は娘さんの部活動の競技かるたの練習の場になり、床座ができるエリアにもなっている。そして、自然観察が大好きな息子さんは庭の縁側を陣取り、カブトムシの飼育を楽しむ。
 
 
見事な緑の庭をもつ和モダンの家には、家族それぞれが自分らしい時間を過ごせる居場所が点在している。
 
 
取材・文/間庭典子

S邸
設計施工 つむぐ家 所在地 大阪府堺市
家族構成 夫婦+子供2人 敷地面積 155.07㎡
延床面積 129.13㎡ 構法 木造SE構法

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