2025.11.10

旅の記憶を呼び起こす重厚な石壁をもつ家

街へ緩やかに開き、緑や石壁の景観を共有する令和の平屋

石張りの壁を内外に配し、堅牢無比な城のような風格をもつT邸は、木造住宅とは思えない重厚さだ。大空間のLDKには柱や壁などの視界を遮るものがなく、部屋の奥まで見通せる。テラスや庭を介して、緩やかに街とつながり、まるで海外リゾートのコテージに滞在しているような気分を味わうことができる。
 
 
世界60カ国以上を巡ったという旅好きなTさん夫妻。気球からヌーの群れを見下ろすような大冒険や、暮らすように旅する長期滞在も多かった。「アマゾン川の近くでハンモックに寝たのが忘れられなくて、ハンモックで昼寝できる家に住んでみたいと思うようになりました」と奥さま。当時はマンション暮らしだったが、近隣の土地が空いたことを知り、すぐに購入。平屋であること、柱のない開放的な居住空間を要望として挙げた。
 
 
「ほかの設計事務所も検討していたのですが、星野さんの事務所を訪問した際に説明を伺ったところ関心をひかれ、要望を伝えたうえで設計案を出してもらうことにしました」とTさんは振り返る。提案されたのは、SE構法を採用することで、天井高3m以上ある大きな空間でありながら、許容応力度計算による耐震等級3を確保できるプラン。他社と比較した結果、最も開放的な空間で、非日常を感じられたのが、この空間構成だった。
 
 
roomz 星野建築事務所は、新潟を代表するワイナリー、カーブドッチの宿泊施設「ワイナリーステイ トラヴィーニュ」などの商業施設も多く手掛け、ラグジュアリーな空間をSE構法により築くことを得意としている。「昭和時代の平屋では、庭や生垣が街と人々を緩やかにつなぎ、ご近所さんとの交流が日常的でした。そんな懐かしい昔ながらの平屋文化を現代的に解釈した、令和スタイルの平屋をT邸では実現したい、と考えました」とコンセプト設計を担当した星野貴行さんは語る。
 
 
エントランスにテラス、LDKにも重厚感のある石張りの外壁を用いることで、外と内の境界をあいまいにし、空間に連続性をもたせた。室内から大開口を通じてテラスや庭とつながり、さらには街へと開いていく平屋だ。「暮らしの気配を感じ取れるよう、道路とは植栽で緩やかに区切っています。天井高約3mのLDKの一部には、床面を一段下げたピットリビングを取り入れ、空間に変化をもたらしました」と星野さん。
 
 
外へ開くからこそ、重視すべきなのが室内の快適さ。断熱性・蓄熱性・遮音性・メンテナンス性などで国内基準を大幅に上回る性能を誇るドイツの木繊維断熱材を採用。耐震等級3に加え、長期優良住宅も取得し、長く住み続けられることも考慮した。また換気システムは「スティーベル」を採用。結露対策やPM2.5や花粉を遮断するなど、24時間換気システムは「健康」「快適」「省エネ」の面で重要な役割を果たす。室内の温度変化が少なくなるため、冬場のヒートショックを防げることも大きな利点だ。
 
 
「新たに持ち込んだ家具はダイニングテーブルくらいなんです」とTさん。ピットリビングには造り付けのソファを設置。収納計画も万全で、キッチンには飾り棚となるキャビネットも造作した。旅で集めた雑貨や器をディスプレイし、好きなものに囲まれて生活ができる。気候のいい時期にはテラスで風を感じながら世界各国のワインを手に、旅の思い出を語ったり、ハンモックに揺られて昼寝したり。旅の楽しさを味わいながら暮らせる邸宅となった。
 
 
取材・文/間庭典子

T邸
設計施工 roomz 星野建築事務所 所在地 新潟県新潟市
家族構成 夫婦 敷地面積 256.45㎡
延床面積 152.70㎡ 構法 木造SE構法

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