2019.07.01

木と石を巧妙に使った洗練と快適が共存する家

素材のもつ質感が生み出すラグジュアリー

ダークカラーを基調にしたモダンな空間の背景

I邸の玄関の扉を開くと目に入るのは荒々しい石の壁。上からライトが当たり、その凹凸や陰影がさらに際立っている。“ロックウォール”は2階へと続き、広々としたLDKの壁面の一部を覆うアクセントに。フローリングや壁面のキャビネットなどにウォールナットの無垢材を使用し、白、黒、グレーを加えたモダンな空間となっている。
隙がなく洗練されたLDKは、店舗建築のようなクールな印象。飲食業を経営し、多くの店を見てきた住み手・Iさんならではのセンスだ。
「LDKの内装でお願いしたのは、天井も含めてすべてを塗りにすることです。天井だけがクロスなのは違和感がありますよね」とIさん。リビングの天井は、SE構法による構造部分の木材をあえて見せ、漆喰の風合いとなじませた。
壁面に造作したキャビネットの一部分を飾り棚のようにし、大きめのグリーンを置く、間接照明のやわらかな光で非日常を演出するなど、商業デザインからヒントを得て応用した部分も多い。ゲストが使う機会の多い2階LDKのトイレには、ハワイで購入したヘザー・ブラウンのサーフアートを飾るなど、ふと目に入るものや隠れた部分にも気を抜かない姿勢を徹底している。

パッシブ冷暖により視界からノイズを排除

LDKを見渡していちばん驚くのは、エアコンや照明のスイッチなど、空間を乱すものが一切視界に入らないこと。スイッチなどをまとめたコントロールパネルはリビングからは見えない場所に付け、エアコンはキャビネットに収めてルーバーで隠して空間に溶け込ませている。
また、2階の床下にダクトを収めたパッシブ冷暖を採用したことも、美しく機能的な空間作りに大きく作用した。通常はデッドスペースとなる2階の床下を断熱補強し、エアコンの風を送気する。設計を担当したビルド・ワークスの河嶋一志さんは、「その空気を各部屋へダクトで行き渡らせることで、約40坪の邸宅の全館が14畳用エアコンを1台回すだけで賄え、年中快適な環境を作り出せるのです。この温熱環境の手法は省エネであるだけでなく、エアコンの風が肌に直接あたらずにすむなど、過ごしやすさの点でも際立っています」と語る。夏はひんやり、冬はほのかな暖かさがウォールナットの無垢材を通して伝わってくる。「2歳の娘も木の肌触りが気持ちいいからか、おもちゃで遊ぶならソファの上で、と何度注意しても知らぬ間に床で座り込んで夢中になっているんです」とI さんも微笑む。

重厚感のある外観が閑静な住宅街に調和

昔の邸宅の石垣をそのまま残して使い、木の質感を生かした外観に。「I邸は角地に立っているので外観が目立ちます。外装塗装の白、板張りのブラウン、スチール部分の黒の配分には特に気をつけました。屋根の水平ラインを強調し、建物の重心を低くすることで落ち着いた印象に仕上げています」と河嶋さん。このエリアは山ろく修景地区。軒を出し、勾配屋根とすることが必須であるなど、景観を守る規制が多いなか、閑静な住宅地ともなじみ、モダンでシャープな内部ともバランスがとれた外観を実現した。
無駄を配したミニマルなデザインと機能的な温熱環境システム。この一見、関連性のない要素がI邸では相互に作用し、スタイリッシュで暮らしやすい生活空間を生み出している。

取材・文/間庭典子

I邸

設計施工 ビルド・ワークス 所在地 京都府京都市
家族構成 夫婦+子供3人 延床面積 142.53㎡
構法 木造SE構法

この家を建てた工務店

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