2021.02.01

二つの庭から光が注ぐ、端正な住まい

グリーンを重ねて涼やかに、奥行きと広がりを味わうLDK

中庭と南側の庭から光が注ぐ
開放的な1階のLDK

 
都内の住宅地で旗竿敷地のため、プライバシーを守り、十分な採光が目的で中庭を設けたというI邸。当初は南側の開口をここまで大きくする予定ではなかった。「南に面した庭は、実は隣家の敷地。目隠しが必要だと借景を得ることはあきらめていたのですが、新しく住まわれる方のご厚意で、塀で遮らず、この庭を共有できることになったんです」と語るIさん。南側を大開口にし、2つの庭に囲まれたプランとした。自然の木々を生かした趣のある庭は、ここが都心であることを忘れるような安らぎをもたらす。
南側の大開口からの光と風も心地よい。「結果、1階でも2つの庭から柔らかな光が差し込む、明るいLDKとなりました」とIさんはいう。壁で遮断せずに、外部空間を豊かに取り入れたこの伸びやかな空間はSE構法によるもの。柱が視界を邪魔することもない。安心して長く住み続けられる耐震性能を確保することもできた。
 

床の素材や段差の工夫でさりげなく
ゾーニングした大空間

 
また、Iさんがデザイン面で希望したのは、落ち着けるリビングだったという。フロアレベルを周囲よりも一段低くすることで、こもるような快適さが生まれた。床はフローリングではなくタイルにし、視覚的にも区切った。和室も畳敷きのため、あえて障子を閉めなくてもゾーニングができる。結果的にそれぞれ用途が違う居場所を目でも認識でき、さらに暮らしやすくなった。
夜は間接照明を生かしてムーディに。「壁を囲むような天井の間接照明部分は、レッドシダーの羽目板張りを採用し、柔らかな光で包まれるようにしました」と設計を担当したテラジマアーキテクツの深澤彰司さん。「旅館を思わせる佇まいを日常に取り込み、細部にわたりしつらえにこだわりました」と深澤さんは語る。
その端正な意匠は、リネアタラーラで造作したキッチンにも見て取れる。東側の壁一面、高さ87㎝以下をキャビネットにし、隠す収納を徹底することで、生活感のない空間に。ウォーターサーバーも事前に大きさを把握し、外から見えないようにキャビネット内に収めた。そしてオリジナリティあふれる機能も。家族全員で鉄板を囲む、昔でいう囲炉裏のような食卓が実現した。「実はお好み焼きを焼けるようにカウンターに鉄板がビルトインされているんです。まさかこんな希望がかなうなんて、驚きましたね」と奥さまは笑う。
 

自分たちにとっての日常や憧れを
まずは率直に伝えるのが大事

 
「家族にとって最優先すべきことはそれぞれ。先入観を持たず、どんな暮らしが憧れなのかを率直に伝えてください」と深澤さん。I邸では子供部屋の壁にクライミングウォールが設置されている。楽しみながら日常的にエクササイズでき、自粛期間中の運動不足も解消されたとか。Iさんの部屋は帰宅後に落ち着ける書斎、奥さまの部屋は中庭に面した場所で快適に過ごせる空間にするなど、家族それぞれに適した個室を設計した。
「その家族にとって上質な暮らしとは何かを考え、デザインと技術を通じてそれを形にしていきたい」と語る深澤さん。温かみがあるのにモダン、洗練されたカウンターでお好み焼きを囲んで語らう──。そんな相反する要望もデザイン力のある工務店との家づくりなら実現できる。
 

取材・文/間庭典子

I邸

設計施工 テラジマアーキテクツ 所在地 東京都目黒区
家族構成 夫婦+子供2人 敷地面積 234.26㎡
延床面積 209.49㎡ 構法 木造SE構法

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