2022.06.06

家の象徴となるエントランスの坪庭

素材の切り替えや高低差の妙で奥行きを表現した大空間

道行く人の目も楽しませる
エントランスの坪庭の効果

京都・西陣の奥まった静かな路地。そこに突然現れるキューブを重ねたようなモダンな外観。一見、カフェかギャラリーのようにも思えるこの部分はY邸のエントランス。手前の小さなキューブと奥のキューブの間は上部が吹き抜けになっており、さまざまな樹木を植えた坪庭がある。奥側の上部には壁があるため、2階のLDKの様子は路地側からはうかがえず、室内には坪庭から風と光が取り込まれている。
通常、間口が狭く、奥行きが長い京都ならではの立地の場合、町家の伝統から学び、敷地の中央を中庭や通り庭にすることが多い。しかしこのY邸では、正面に坪庭を配した。玄関前のアプローチの植栽は、大開口の目隠しになるだけでなく、道行く人の目を楽しませている。造園は700件を超える住宅や商業施設のエクステリア設計施工を手掛けているグリーンスペースに依頼。無造作に重ねたように見えて、どのアングルからも美しい、雑木林のように表情豊かな坪庭が完成した。

細長い敷地を生かした
奥へと広がるレイアウト

玄関の扉を開くと長い廊下が奥の寝室まで伸びていく。西側はラウンジやエクササイズスタジオなど、あらゆるシーンに対応するフローリング床のサロンにした。仕切りとなる壁にはガラス素材を選び、開閉を自在にしたため、開放感のある玄関ホールの一部にもなる。空間を大きく、伸びやかに感じさせるアイデアといえる。家で作業する機会も多いご主人のリモートワーク用オフィスや寝室は1階部分にまとめて、2階をバスルームと大空間を有するLDKとした。
階段を上ると南北へと伸びるこのLDKが広がり、片流れの勾配天井が圧巻。リビングとダイニングの床面は、ダイニングが一段上に位置しており、天井の角度に合わせて伸びていくような視覚効果をねらった。キッチンは東側にコンパクトにまとめ、ダイニングが主役に見えるよう空間にメリハリをつけた。ジノ・サルファッティのデザインによるフロスのシャンデリアが存在感を放ち、この空間をさらに特別なものにしている。さらに収納の上部には無垢材を配したことで、効果的なアクセントになった。

意識的にヌケをつくることで
空間をより心地よく、有効に

勾配天井を利用し、徐々に視線を上げてキッチンを寄せたことで、正方形ではなく、奥が狭くなる台形の大空間に。結果、より奥行きが感じられる眺めとなっている。「スチール階段も通常よりゆるやかな斜度で設置しています」とタイコーアーキテクトの設計担当、前田 良さん。スケルトンにしたため、圧迫感がなく、奥に続く廊下を見通せる。1階にも2階にもヌケを意識的につくり、限られた空間を有効的に活用した。
この端正なY邸がより魅力的な空間に仕上がったのは、Yさん夫妻のセンスによるところが絶大である。例えば直線的な空間にはエアプランツやドライフラワー、流木などのオーガニックな質感を添えて変化をつけた。キッチンの飾り棚には、よく使う食材やリキュールをバランスよく散らし、見せる収納も楽しんでいる。機能性を重視し、緻密に計算された無機質なスペースだからこそ、好きなもののスタイリングが映える──。そんなスマートでスタイリッシュな町家となった。

取材・文/間庭典子

Y邸
設計施工 タイコーアーキテクト 所在地 京都府京都市
家族構成 夫婦 敷地面積 107.25㎡
延床面積 115.92㎡ 構法 木造SE構法

この家を建てた工務店

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