2020.07.27

空中庭園を囲む安らぎの家

家を守ってきたケヤキの大木とともに、これからも暮らせる住まい

宙に浮かぶ思い出の庭園が
巨大な植木鉢により実現

 
「いわば巨大な植木鉢を造る発想です」と設計を担当したroomz 星野建築事務所の星野貴行さん。JR新潟駅への幹線道路を広げる区画整理により敷地の縮小を余儀なくされたK邸だが、昔のままの庭園は残したかったそうだ。しかし目の前が交通量の多い道路となっては、以前のような静寂は望めない。そこで提案したのが、以前は1階にあった庭木、庭石をそのままコンクリートの巨大な箱に移植し、2階部分にかさ上げする大胆なプランだった。「ケヤキの木は我が家をずっと見守ってくれた大事な存在。この庭園の植栽のほとんどは、以前からあるものをそのまま移植しました」とKさんは語る。
幹線道路に接する部分に「植木鉢」を配し、庭園を取り囲むようなL字型のプランを採用。「植木鉢」とSE構法による建物本体とは完全に分離しているが、建内外からは一体化しているようにしか見えない。1階はガレージや浴室などの日常生活に必要な機能をまとめ、2階はどの位置からも庭園を眺められる広いLDK、3階を寝室とした。1階からは庭園が望めない分、玄関脇に路地庭を造り、浴室やトイレからも緑を感じられる。
「街の中心地にいながら、里山に滞在しているような安らぎを感じる空間になりました」とKさん。同居する高齢のご両親は家の中で過ごす時間がほとんどであり、庭を囲む大開口によって室内は常に明るい。また、車椅子でもストレスなく移動できるよう、動線はゆったりと、室内は段差がまったくないバリアフリーの設計にした。「トイレの面積も広めにとり、手すりを設置するなど、高齢者にも優しい設計にしてもらいました」とKさん。1階のトイレからは路地庭の竹がスリット状の開口から眺められて、目にも優しい。
 

バリアフリー最優先でも
機能性とデザインは両立

 
バリアフリーの設計はデザイン上で思わぬ効用があった。「すべてのフロアをフラットな仕様にすることで広がりを感じ、伸び伸びとした空間を強調できました」と星野さん。また道路拡幅のために長方形だった敷地がいびつな台形となったが、それも庭を囲むL字の住居にすることで解消した。また、ホームエレベーターを設置したので階段は補助的な動線に。「1.5m×2.6mのスペースに納めたらせん階段は、大空間のなかでオブジェのような存在感を発揮しています」と星野さんは分析。室内にある様々な手すりは無垢材を使用し、インテリアになじむように設計。床は車椅子でも操作しやすく、キズもつきにくい複合フローリングを採用し、スタイリッシュなバリアフリー空間がかなった。
 

10年後も幸せに過ごす
先を見据えた未来の家に

 
この数十年で家の性能も改善した。「床下冷暖房がさらに進化し、暖房は床下から、室内の空気より重い冷気は上から降り注ぐよう切り替わるなど、室内環境も劇的に進化しました」とKさんも驚く。また、「昨今の地球温暖化に対応するため、外部からのエネルギーに頼らずとも生活できるシステムがより普及するのでは?」とKさんは予測。そこで屋根全面に18.7kWhの太陽光パネルを設置し、エネルギーを自給自足できるZEH対応とし、将来的にはEV(電気自動車)のバッテリーを家庭用蓄電池として利用できる設備をガレージ内に設けた。10年後も幸せに暮らすために、機能面でも未来を見据えた家が完成した。
 

取材・文/間庭典子

K邸

設計施工 roomz 星野建築事務所 所在地 新潟県新潟市
家族構成 子世帯+両親 敷地面積 217.22㎡
延床面積 279.54㎡ 構法 木造SE構法

この家を建てた工務店

MLWELCOMEの新着記事

MLWELCOME

MLWELCOMEは『モダンリビング』誌と「重量木骨の家」とのコラボレーションで特別編集されたムック本として2015年10月に発行されました。厳選された木造住宅の実例をウェブサイトでもご覧ください。