空間で変化をつけた究極のミニマムハウス


街中にありながらも高台のため近隣の住宅に遮られず、山の借景を独り占めできる。手前に広がるのはブドウ畑。玄関と反対側となる南に庭を配置した。

真っ白な空間のなかで黒のスチールの階段がアクセントに。各フロアの踊り場はあえて広めにとり、眺めを楽しみながら時間を過ごせるスペースにした。

寝室や子供室のある3階から見下ろしたLDK。この角度から見ると、テラスとLDKがワンフロアのようにつながっているのがよくわかる。庭の土地の高低差を調整するため、テラスにはひな壇のような段差をつけた。

1.天井高6.5mという伸び伸びとしたキッチン。LIXILのリシェルSIシリーズのアイランド型を採用。黒の風合いのある質感が白の空間に際立つ。/2.2階の玄関を開けると、空へと抜ける風景が。住宅は密接しているが、段差があるため視線は気にならない。右側はシューズクローゼットを兼ねた土間収納に。家族3人の靴を収めてもまだ余裕がある収納量。冬用のコートやキャンプ用品なども同時に収納している。

遮るものがない、動線にもゆとりのあるキッチンは奥さまの要望。みんなでキッチンに入れるスペースがあり、庭とつながるので、パーティのときも便利。

東と北から採光でき、太陽と共に目覚めることができる寝室。北側の窓にはカウンターを設け、山々を眺めて過ごせるようにした。

天井高6.5mの3層を貫く大空間は圧巻。階段を上るごとに風景が次々変わる。ギャラリーのような白い空間に、美大出身の奥さまが描いた絵の赤が映える。

リビング側から見たLDK。パントリーを兼ねた壁面の棚にも扉をつけ、生活感のある部分はすべて隠した。

洗面室は広めにとり、ランドリーの機能も兼用。洗濯、バルコニーへの物干しの動線を確保し、たたんだりアイロンをかけたりといった作業もここですべてできるようにして、家事ストレスを軽減。

玄関横の土間収納にはシューズや衣類、アウトドア用品以外に、自転車なども置けるゆとりが。
どの層へも採光と眺望を約束する、南面の大開口
敷地の高低差を生かした
3層吹き抜けの大空間
ブドウ畑に囲まれた緑豊かな地に立つS邸。玄関から進むと目の前に広がるその大空間に、訪れたゲストはみな圧倒されることだろう。そこは中2階にあたる玄関のフロア、庭に面したLDKのある1階、寝室や子供室などプライベートな空間をまとめた2階の3層を貫く吹き抜けなのだ。どのフロアからも大開口から空と芝生が、そしてその先には上田の山々が望めて心地よい。
「駅に近く、自然にも恵まれた環境でしたが、高低差が激しいという側面も。そこで庭に面した一番下の層をLDKのある1階とし、公道に面した中2階に玄関を造りました」とSさん。基礎工事にはコストを要したが、その分1階に大きな収納スペースを確保できた。南側の大開口をどの階から望むかによって見え方が変化するのも楽しい。階段周りの各スペースを、ふとした時間を過ごす間になるよう広めにとるなど、スキップフロアを有効に生かす工夫もした。3層を貫く大空間が映え、高低差というデメリットを逆手にとり、メリットに転じた好例だ。
目指したのは「何もない家」
柱も壁もない大空間が実現
「何も物を置かない、究極のミニマリストのような暮らし方を目指したんです」とSさん。当初、シンプルを極めた無印良品の家を検討したが、長野で展開する工務店がまだなく断念。そこでSE構法を手掛けている工務店を検索し、M-STYLEHOUSEに行き着いたそう。「柱も壁もないぽっかりと広がった大空間が、木造でも可能だと知り、驚きました」とSさん。SE構法は強度が均等で構造計算ができる集成材を使うため、どの部分にどれくらいの負担がかかるのか、地震の揺れに対してどの部分を強化すべきかなどを予想でき、必要最小限の柱や壁で耐震性に優れた構造が可能に。さらに特殊な金具で接合することで、強靭な構造体となる。最近では学校やホテルなどの大型施設でも、SE構法は採用されている。「強度が数値で確認できることにより設計の自由度が高まるので、通常の住宅では例をみない3層の吹き抜けも可能なのです」と、M-STYLE HOUSEの設計担当、酒井良子さんは解説。
必要最低限の家具を選び、収納やデスクなどは造作。移動できる家具はソファとダイニングテーブルのみという徹底ぶりでミニマムなLDKを構築し、白い空間に黒を利かせてシャープにまとめた。なかでも圧巻はスタジオのように広く、洗練されたキッチン。天井が高く、庭にも面して開放的だ。家族で料理を楽しめるよう、アイランドキッチンとコンロの間は0.9mとゆとりをもたせた。
自然とより親しくなれる
テラスと庭を結ぶ階段
キャンプが趣味というSさん。庭でのバーベキューなどによく使う屋外用のテーブルやチェアはシューズクローゼットと並びの棚に置き、必要なときにすぐ取り出せるようにしている。また、育ち盛りの子供の遊び道具も収納。室内をスッキリとさせることに、このゆったりとした土間収納は貢献している。
「1階床と庭も高低差がでるので、そこをつなぐテラスを階段にすることで解消しました」と酒井さん。ひな壇のような、テラスの階段部分はベンチのようにも活用でき、日なたぼっこには最適。今夏には20名以上が集うバーベキューパーティを開催したという。大開口のミニマムハウスは、太陽と友達になれるアウトドアフレンドリーな家でもある。
取材・文/間庭典子
S邸
設計施工 | M-STYLE HOUSE | 所在地 | 長野県埴科郡 |
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家族構成 | 夫婦+子供1人 | 敷地面積 | 349.09㎡ |
延床面積 | 123.47㎡ | 構法 | 木造SE構法 |