2020.06.15

音楽のある毎日を演出する心地よいコンパクトハウス

小さな吹き抜けの存在が住環境を劇的に変える

コンセプトは家族全員が
音楽に親しめる家

 
家族全員が楽器を演奏する稲葉邸は、ひと言でいえば「音楽と共に暮らす家」。熊本市内を走る路面電車のエリア内という恵まれた立地にあり、決して敷地は広くないが、限られた空間を快適に過ごす知恵が盛り込まれた住宅だ。約53㎡の1階は玄関ホールと家族が集うLDK、約51㎡の2階は寝室や子供室、浴室を集約した。必要なときだけ開閉する隠し扉からはしご階段で登るロフトも設け、収納も十分にとっている。
住み手であり、設計も手掛けた稲葉祐介さんは、ロジックが展開するGranT一級建築士事務所の建築士。2016年の熊本地震後、実家の耐震調査で高額な修繕費がかかると判明し、ご両親は転居。この土地を譲り受け、新築することを決断した。
「いつか自分が建てた家に住みたいという夢はありましたが、まさかこんなに早くその機会が訪れようとは。心の準備もないままに進めることになりました」と当時を振り返る。近所とは顔見知りで、ご自身も幼い頃からバイオリンを習っていたことから、近隣は音楽に理解があることは分かっていた。ならばピアノを演奏する奥さまやお嬢さんも気兼ねなくレッスンができる、音楽と共に暮らす家にしようとプランを練った。
 

吹き抜けを生かして
空間に奥行きと広がりを

 
「階段周りを吹き抜けにし、格子で緩やかに仕切った土間スペースの奥に、ピアノを置くことにしました」と稲葉さん。吹き抜けは2階のフリースペースとつながり、心地よくピアノの音が反響する。約7.5㎡ほどの小さな吹き抜けではあるが、玄関を入ってすぐの場所にあり、LDKにも接しているため、空間に広がりや奥行きを感じさせる。
「壁を立てて完全にふさぐと閉塞感が生まれるため、玄関とLDKは2mの腰壁で区切り、上部は横格子にして風通しを良くしました」と稲葉さんは解説。腰壁には両面にニッチを設け、飾り棚としての役目も持たせた。白壁とフローリングの明るい空間に、黒い飾り棚やスチールの階段、ブルーグレーのレンガタイルなど、異なる素材を組み合わせて変化をつけている。
LDKの南側に長さ約7mのウッドデッキを設けることで、より開放的に。車で移動することが多い地域なだけに、ウッドデッキ前の庭はゲスト用に車2台を停められるスペースを確保。パーキングとしても活用できるようにした。
 

それぞれの居場所をつくり
程よい距離を保つレイアウト

 
キッチン周りはシンプルに整えるため、壁一面に上下でキャビネットを造作。十分な量を収納できるようにし、隠す工夫もしている。「料理をしていると娘が弾くピアノの音が聴こえてきて、声をかけたりもしますが、お互いの姿は見えない。この距離感がちょうどいいですね」と奥さま。時には2階で稲葉さんが弾くバイオリンが加わり、ハーモニーを奏でることも。ひとつの家でそれぞれの時間を過ごしながら、時には交錯するような程よい距離感のレイアウトを目指した。
「ロジック/GranT一級建築士事務所では、建築士による洗練されたデザインと最新技術による機能性を提案してきました。実際に自分が住むことにより、高気密・高断熱の快適性や吹き抜けの開放感などを肌で知ったので、今まで以上にお客さまに自信を持って提案できます」と稲葉さんは笑顔で断言する。住み手の未来を守り、ライフスタイルに寄り添う家を造っていきたいと語った。
 

取材・文/間庭典子

稲葉邸

設計施工 GranT一級建築士事務所 所在地 熊本県熊本市
家族構成 夫婦+子供1人 敷地面積 137.28㎡
延床面積 104.65㎡ 構法 木造SE構法

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