2017.06.22

ミニマムな直線で描くシンプルモダンな大空間

ミニマムな直線で描くシンプルモダンな大空間

古都の規制を守り完成した景観に馴染み、生かす外観

古都・京都の門前町にあるT邸。周囲には歴史的な建造物や古い邸宅が多く、趣ある景観が広がる。この家はキューブを組み合わせたような現代的なデザインであるが、近隣の邸宅の伝統的な建材や漆喰、日本瓦に近い色や素材を使用しているため、自然に歴史ある町並みと馴染んでいる。「京都は全国でも景観条例が厳しく、歴史的な寺院が多いこの地区は特に厳しいエリアです」と設計担当のビルド・ワークスの河嶋一志さんは語る。外壁や屋根の色、素材だけではなく、屋根の勾配や建物の外壁から突出しないバルコニーなど、デザインに関する規制も多い。それを守りつつ、風景に馴染み、かつモダンなデザインを実現した。
アプローチを抜け玄関の扉を開くと、正面には曇りガラスのモダンな窓が目に入る。リビングからの自然光が届き、やわらかい光に包まれる。白い壁とガラス、射し込む光が奏でる静けさがある。さらに足を進めると一面が開口部となった大空間が広がる。「アプローチから玄関ホール、LDKと進むにつれ、場面が徐々に展開し、驚きのある動線にしました」と河嶋さんは語る。静寂な玄関と明るく開放的なLDKの対比がドラマティックだ。

まっすぐに伸びた煙突が広く高い開口を演出

柱や耐力壁に妨げられない大開口は、耐震構法SE構法だからこそ可能な構造。「この位置に薪ストーブを置こうと最初から決めていたわけではないのですが、上に伸びるまっすぐな煙突は設計前からのイメージでした」とTさん。煙突ののびやかでシンプルなラインは、天井の高さを強調し、印象的だ。
LDKの壁の一部は打ち放しのようにラフなグレーのモルタル仕上げにした。開口部の対面となる階段のある壁面は、光を反射するピュアホワイトに。一筆で描いたような階段の影が美しい。「2階の廊下やオフィスには、三葉製作所の放射冷暖房システムを設置しました。これはアルミ製のパネル内を循環する水の温度により家全体の室温を調節するシステムで、通常のエアコンと違い乾燥の原因にならないので、湿度も快適に保てます。また、このシステムを入れた空間では、冬は体感温度が実際の室温より3度ほど上がるといわれ、快適に過ごすことができるのです」と河嶋さん。放射冷暖房は薪ストーブと同様に体を芯から温め、夏は木陰にいるように涼しく快適だ。「放射冷暖房システムはモダンな白い格子のデザイン。空間の雰囲気に合い、目隠しの役割も兼ねています」と河嶋さん。LDKで過ごしていてもオフィスで作業するご主人の気配が感じられ、階段上の廊下沿いにある書棚コーナーは格子から外の光が射し込んで明るい。格子の間から1階のリビングの様子を見渡すこともできる。

無機質な空間だからこそ際立つ有機物の存在感

市内の家具屋「FILE」のダイニングテーブルともともと馬車のメーカーとして創業した「アイラーセン」のソファなど、クラフトマンシップが感じられる機能的なデザイナー家具を中心にコーディネイトしている。「自宅で終日作業する業種なので、フォルムの美しさはもちろんですが、快適さと機能性も大切に考えました」とデザインの仕事をされているTさん。ちなみにアーティストとして活躍されている奥さまは現在子育て中で、今後、2階の予備室をアトリエにして自宅で制作することも構想している。
ミニマムを極めた空間は、無機質だからこそグリーンや花などのオーガニックな形が際立つ。野の花のように可憐な花を部屋の各所に飾り、温かみを演出。薪ストーブの炎は動きがあり、存在が映える。「住み続けていくうちに床や壁にダメージができたとしても、その傷を思い出として愛でるような暮らし方をしたい」とご夫妻は微笑む。ミニマムを極めた空間はその家族とともに時を刻み、深い味わいを増していく。

取材・文 間庭 典子

T邸

設計 河嶋一志(ビルド・ワークス) 施工 ビルド・ワークス
所在地 京都府京都市 家族構成 夫婦+子供1人
延床面積 131.67㎡ 構造・構法 SE構法

この家を建てた工務店

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