2021.01.05

モダンな空間と日本家屋をつないだ2世帯住宅

広がりと抜けを感じる伸びやかな居住空間

和の空間△+モダンな家□=
新しい発想の2世帯住宅

 
F邸のテーマは「△+□の2世帯住宅」。ご両親が住まう、日本家屋で勾配屋根が三角形の△棟と、Fさんご夫妻が住まう、モダンでキューブ型の□棟を共有空間でつなぐプランだった。
共有空間にはアート作品を飾るギャラリーのような玄関ホールや浴室を配し、LDKも自由に行き来できるように設計。「廊下の途中には採光も兼ね、中庭を配しました。△の棟と□の棟の間に距離があることで、程よい『間』が生まれています」と、設計担当のロジック/GranT一級建築士事務所の山下真之さん。80代でお元気なご両親だが、今後を見据えてお互いの気配を感じ、すぐ行き来できる動線を目指したという。
伝統的な日本家屋の△の棟には縁側から庭園を見渡せる間取りに。庭師としても活躍していたお父さまが造園した日本庭園で、その奥には畑も広がる。熊本県北部に位置する山鹿市はスイカやアスパラガス、タケノコや栗など農産物が豊富。「裏にあるのはオクラ畑です。もぎたての野菜を日々、食べることができるのは本当にぜいたくですね」とFさんはしみじみ語る。
 

□の空間はRC造のような
シャープで硬質なデザインに

 
対するFさんご夫妻が住む□の棟はモダンを極めた空間だ。「コンクリートの打ち放し風の無機質なデザインがよかったんです」とFさん。その要望を山下さんに伝えたところ「『○○風』はやめましょう。実際に打っちゃいましょう!」と即、提案が。結果、リビングの一面をコンクリートにし、木造とは思えないシャープさが実現した。
ロジック/GranT一級建築士事務所とFさんとの出会いは熊本地震から1年弱ほど経過して開催された構造セミナー。「今までRC造なら強くて安全と思っていたのですが、SE構法を知り、木造でも安全に大空間を実現できることに驚きました」と当時を振り返るFさん。このセミナー終了後に好奇心旺盛なご夫妻はさまざまな質問を投げかけ、疑問点が次々にクリアになったという。その半年後、60歳になったことを機に山鹿市に戻ることを決意し、ロジック/GranT一級建築士事務所へ再訪。長年、広告代理店に勤め、現在もグラフィックデザイナーとして活躍されているFさんはデザインのプロ。「全国各地のSE構法住宅も参考にしました。耐震性に優れながら、構造上の制約が少なく、自由度が高いことが決め手でしたね」とFさんは語る。天然素材の木に守られるという安心感も大きかった。リビングの延長となるテラスを広くとり、バルコニーが張り出すようにデザイン。これもSE構造だからこそ可能なプランニングといえる。
 

ギャラリーのような空間を
住み手が仕上げていく家

 
「家づくりで大切なのはディテールと家全体のバランス、プロポーションです。住まいは最終的には住み手が仕上げるもの。その余白を残すようにしています」と山下さんは語る。2世帯共有の玄関ホールにはゆとりをもたせ、自作のアートやコレクションを飾り、ギャラリーとしても活用している。
かつて中・高校の同級生だったご夫妻は都内で新婚生活をスタートし、お子さんが生まれたのを機に環境の良い熊本市内に転居。その市内のマンションには現在、独立した息子さんが住んでいる。今、ご夫妻は故郷の地で好きなものに囲まれて暮らす新たな章を迎え、自然との生活を楽しんでいる。
 

取材・文/間庭典子

F邸

設計施工 GranT一級建築士事務所 所在地 熊本県山鹿市
家族構成 夫婦+両親 敷地面積 605.52㎡
延床面積 160.66㎡ 構法 木造SE構法

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